水田そして田植え
夜蛙(よかわず)の鳴く音(ね)に帰路をせかさるる (拙句)
私の居住地から車で厚木市街に向かうには、二つのルートがあります。
一つ目は表ルートで、津久井方面に通じている県道に出て、その道を1km弱走って246号線に入るルート。こちらは平塚方面に向かう246号沿いの両側に厚木警察や厚木税務署などがあり、一番確かですが平日でもいつも渋滞気味でイライラさせられます。
二つ目は裏ルートで、対向車とやっとすれ違いできるくらいの狭い道を1km弱走って、中津川沿いの道路に抜けてそこから国道129号線に上り、少し走って厚木市街に入っていくルート。こちらは途中やや道幅が狭いのが難点ですが、ほとんど渋滞はなく急ぎの場合などよくこのルートを通ります。
このルートの中津川沿いの道までは狭い道ながら、昔からの農家やお寺さんや畑があり、所々に建売住宅やアパートなどが点在するくらいの道です。昔の農道をいつの頃からか、幅狭い車道そして通学児童らのための片側歩道として拡張したもののようです。
建売住宅の間に、ちょうど一反歩(いったんぶ)ほどの一枚の田んぼが残っております。先週の土曜日(17日)の夕方帰りにこの道を通りました。そうしましたらその田全体に水が張ってありました。
『早いなあ。もう水を張ったのか。この分じゃあ田植えも間もなくだなあ』。
週明けの月曜日にまたこの道を通りましたところ、何と素早いことにもう小さな苗が田一面に植えられているではありませんか !
私の郷里(山形)では、田植えは確か6月も中旬過ぎ頃と記憶しております。そして稲刈りは、秋も深まった10月の中旬以降。当地ではおよそ一ヶ月ほどは早いようです。その分実るのも早く、例年9月中にはさっさと稲刈りを済ませてしまうようです。
「お味の方は?」。「分かりません」。何せ当地米を食べた記憶がないもので。
当地のお米屋さんでも、地元米はほとんど置いていないようです。それにポツンポツンと点在するだけの田んぼの現状では、収穫量もたかが知れていますから。農家が自分の家で食するのが目的で、作っているのではないでしょうか。
今はまだ聞かれませんが。もう少し経つと、その田んぼを通るたびに蛙の鳴き声が、車の窓を閉め切っていても聞こえてきます。年々身近な自然が狭められていく中で、その声はなぜか私をほっとさせます。
冒頭の句は、今から数年前母がまだ存命の頃、と申しましても寝たきりになり私が母を自宅介護していた頃。業務上の都合で少し遠出して、夜8時頃にこの道を通った際、この田んぼから夜蛙の鳴き声がかまびすしく、「母さんのために早く帰ってやりなよ」というように感じた、そのことを詠んだものです。
もうそんな時間になりますと、裏道ゆえ街灯も乏しく周りは暗く、田んぼをグルッと取り囲む家々の灯影が、田の水面(みなも)に映って揺らめくばかり。
知らず知らず自然を狭めている人間界の悪事(?)は、夜の帳(とばり)にうまいこと隠されて、それはそれでなかなか情趣のある光景です。
(大場光太郎・記)
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コメント
大場さんの散文は、二木さんの「うた物語」へのコメントで、含蓄に富んだしかも説得力のあるものと承知しています。
小生は、ほとんど散文のことしか分からないため、大場さんのように俳句に秀でていることが、羨ましい気持にもなります。
かと言って、今から短歌や俳句に精進しようという気もないため、人様が作るものをじっくりと味わいたいと思います。
この文のように、俳句と散文がハーモニーを奏でるものが、私のような素人には分かりやすいですね。
投稿: 矢嶋武弘 | 2008年5月26日 (月) 16時28分
矢嶋先輩。と、早大の後輩でもない私がお呼びするのも何ですが。『うた物語』を通して、私は矢嶋さんがすっかり好きになってしまいましたもので。
この度は、お訪ねいただいたばかりか、早速のコメントまで頂戴致し、まことにありがとうございます。また御文の中で拙文をお褒めにあずかり、大変恐縮に存じます。後のことにつきましては、後ほど先輩のブログを訪問させていただき、そちらで述べさせていただきます。
簡単ですが、上御礼まで。
投稿: 大場光太郎 | 2008年5月26日 (月) 23時24分
私が記事を更新するのは、その日の未明頃がかなり以前から定着しております。しかし本日は都合により、それが叶いません。そこできのうの記事『初夏だより』で少し触れました、昨年の今頃の記事『水田そして田植え』を、ピンチヒッター的に再公開致します。どうぞご了承ください。
とにかく日々の諸事、雑事、当ブログ更新記事作成等に追われ、去年の今頃の記事など、私自身読み返すゆとりがありません。上記の次第にあいなり、今改めて読み返してみますと、『当時はこんなこと書いてたんだっけ』と、懐かしさと共に、自分の過去の文章から奇妙ながら刺激をもらいました。
今後とも、新記事更新がままならない場合は、このように過去の記事の再公開も一方法かな?と、考えたりしています。
投稿: 大場光太郎 | 2009年5月20日 (水) 02時03分