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「浜千鳥」-この歌の悲しさの源泉とは?

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                      「浜千鳥」

作詞者 鹿島鳴秋   作曲者 弘田龍太郎

 

青い月夜の 浜辺には

親を探して 鳴く鳥が

波の国から 生まれでる

濡(ぬ)れたつばさの 銀の色

 

夜鳴く鳥の 悲しさは

親を尋ねて 海こえて

月夜の国へ 消えてゆく

銀のつばさの 浜千鳥


 日常的なるもののうっとうしさ、わずらわしさから逃れたい時など、ふいにこの歌が口をついて出ることがあります。この歌を口ずさんだくらいで、「現実」というこの重苦しい強固なシステムは、いかんともしがたいもの。そのくらい分かっておりつつも。

 『浜千鳥』。歌のすべてが「メルヘン」です。リリカルなやわらかい月の光りに照らし出された、海そして浜辺の詩的幻想世界。大正浪漫の精髄の一端を見る思いが致します。

 思えば私たちは幼少の頃、このようなメルヘンチックな非現実的世界に、当たり前に身を浸しながら生まれ育ったのでした。しかし長ずるに及んで、この社会の声なき声の、『もういい加減、そんな子供じみたことをしているんじゃありません。』との叱咤と促しに、否応なしにその世界から離別することをもって、「大人の世界」への参入の証しとしたのでした。

 この歌の浜千鳥はまるで、「波の国から生まれ出る」と共に、「親を探して鳴く」ことを宿命づけられているかのようなのです。「濡れた翼の銀の色」の、いたいけないひな鳥が…です。
 二木先生のおっしゃっている「寂しさ」「悲しさ」の源泉は、実にここにあると思います。本当に悲しいです。悲し過ぎます。

 時には、「神話」「伝説」「民話」「童話」「童謡」のような一見荒唐無稽と思われるものの方が、薄っぺらなこの現実よりも、物事の「本質」を突いていることがあるものです。

 この現実の世界での浜千鳥の親鳥は、卵から孵ったばかりのひな鳥をすぐに見捨てるようなことは多分ないでしょう。しかし作詞家・鹿島鳴秋は、この歌の詩的世界で、生まれたてのひな鳥に親を探させている。なぜなのでしょう?鳴秋自身の、幼児体験が投影されているのでしょうか?(それは寡聞にして知りません。)
 鳴秋は、「現実的な親子関係」を超えた、もっと「根源的な親子関係」に想いを致していたのではないでしょうか。

 (以下はあくまでも、私流の解釈です。)

 浜千鳥のひな鳥とは、すなわち私たち「人間自身」。そして探させ、求めさせている親鳥は、私たちをこの世で生み育ててくれた肉親よりずっと悠古の初源の、生命そのものの「根源的な生みの親」。つまりこの存在(それを神と呼ぼうが何と呼ぼうが)こそが、私たち人間にとっての「真の親」。

 であるにも関わらず、「夜鳴く鳥」である私たち人間の「悲しさ」は、この真の親を、今の今まで完全に見失ってしまっていたことにあった。
 あまつさえ私たち凡人は、「肉親」の他に「真の親」がいることさえ知らずに、「夜の歴史」の間中ずっと酔生夢死を繰返してきた。「海こえて」「月夜の国へ」、真の親をたずねて行った目覚めた者は、むしろごく少数だった。

 大正のあの時代、鹿島鳴秋自身が「目覚めた者」の一人だったのでしょう。当時の大衆の多くがまだ眠りこけている中にあって、既に目覚めてしまった者の「孤独」。それを多分に感じつつ送った生涯だったのではないでしょうか。

 しかし鳴秋は、彼の心の内なるメッセージをメタファー(暗喩)的に潜ませながら、この『浜千鳥』の詞を、あの時代世に出してくれました。以来この歌が、時代を越えて、私たち日本人の心をどれだけ揺さぶり続けて来たことか。
 「人々よ。汝(なんじ)の真の親に目覚めよ」。鳴秋のこの切実な心の叫びを、無意識の内に受け取りながら。

 作詞した鹿島鳴秋と、作曲した広田竜太郎と、素晴らしい演奏の二木先生に深い敬意を表しつつ、今後とも『浜千鳥』を愛聴していきたいと存じます。 (大場光太郎・記)

 (『浜千鳥』の歌詞と曲は「二木紘三うた物語」にあります。)


関連動画
浜千鳥・常森寿子
https://www.youtube.com/watch?v=JzAGh3Srdag
二代目コロムビアローズ 「浜千鳥」 Columbia Rose II   
https://www.youtube.com/watch?v=3m5GHISHnEY
フォレスタ 浜千鳥
https://www.youtube.com/watch?v=RfOZPap6KKU
浜千鳥 懐かしい日本のうた   
https://www.youtube.com/watch?v=H7FbWl34Vlo
山崎ハコさん「浜千鳥」   
https://www.youtube.com/watch?v=4ErDmFL10ho
【初音ミク】浜千鳥
https://www.youtube.com/watch?v=J9MX-PM0wQE

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コメント

 この一文は当ブログ開設直前の08年4月半ば頃、「二木紘三のうた物語」中の『浜千鳥』にコメントしたものを、当ブログに移転させていただいたものの一つです。多くはありませんが、今でも定期的にアクセスがあります。こういう記事が読み継がれていくことを、本当に嬉しく思います。
 今回歌詞を加えて、再掲載致します。

投稿: 時遊人 | 2011年5月23日 (月) 04時07分

 本記事は当初、「二木紘三のうた物語」の『浜千鳥』にコメントしたのでしたが、当ブログ開設に当たり二木先生ご了承のもと、同サイトから移し替えさせていただいたものです。大正中期の「赤い鳥童謡運動」揺籃期を代表するこの歌への人気は根強く、今でもこの記事にはコンスタントにアクセスがあります(当ブログ、当月総合アクセス33位)。なお今回、冒頭に画像を加え、さらに末尾に『浜千鳥』動画URLを列記致しました。

投稿: 時遊人 | 2016年10月10日 (月) 03時09分

この記事へのコメントは終了しました。

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