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『雨に咲く花』

 『日刊ゲンダイ』の芸能面下段に、「橋本テツヤ あのヒット曲を追っかけろ !」という週一コラムがあります。私はけっこう懐メロ好きなこともあって、いつも目を通し、さほど関心のない曲はそのままスルーします。6月15日付で『井上ひろし 雨に咲く花』が取り上げられていました。それでグイッと惹きつけられ、読んでこれを切り抜きました。
 一読した時この歌の私の一文を思い出し、それとプロDJの文章はどう違うのか、比較するつもりで読んでみました。
 と言うことで、今回は『雨に咲く花』を再掲載します。 

                       *

    およばぬことと諦めました
    だけど恋しいあの人よ
    儘(まま)になるなら今一度
    ひと目だけでも逢いたいの   (『雨に咲く花』 1番)

 私がこの歌を知ったのは、井上ひろしがリバイバルで(もちろん当時はそんなことは知りませんでしたが)歌って大流行していた、昭和三十五年(小学校五年生)頃のことです。ちょうどその頃、昭和三十四年四月十日の世紀の「皇太子(現明仁天皇)ご成婚」を経て、さすがに山形の田舎町とはいえ(白黒)テレビがぼちぼち普及し始めた頃でした。
 
 世の趨勢に町役場の担当者も、「いくら母子寮でも、各戸にもうラジオくらいは置かせてもいいだろう」ということになったらしいのです。こうしてラジオ設置の許可が出て、我が家でも母がどこかから中古ラジオを見つけてきてくれました。他に娯楽のない当時、(もともと学校の勉強が大嫌いな)私は夜ともなれば、ラジオから流れる音声に聴き入っていました。
 多分この歌も、他にはアイ・ジョージの『硝子のジョニー』、三橋美智也の『石狩川エレジー』、坂本九の『上を向いて歩こう』も…。みんないつの間にか、そうやって覚えたのだろうと思います。
                         
 この歌の初発表は昭和十年のことだそうです。そんな時代背景からしますと。この歌の「あの人」はもちろん、今とはおよそ比べものにならないくらい距離的にも、心理的にも遠い「あの人」であるわけです。それを何とかより近い存在にしようと、出来る限りのことはしたのだけれど…。
 それにしても。「およばぬことと諦め」ざるを得ない事情とは?そして他の歌詞でこの女性が自らを「雨に咲く花」となぞらえざるを得ない事情とは?裏に相当込み入った事情が秘められているんだろうなあと、あらぬ想像をめぐらしてしまいます。

 やはり考えられるのは「不倫の恋」でしょう。戦前の旧民法下での厳しい家制度のもとでは、江戸時代の「姦通罪(かんつうざい)」のように発覚すれば市中引き廻しの上磔・獄門(はりつけ・ごくもん)とまではいかないものの、当時不倫は家制度を根底から崩壊させるものとして、絶対的タブーだったわけです。
 この歌がリバイバルで昭和三十年代半ばに大ヒットしたということは、あの当時の社会でもまだ戦前のタブーの名残りが色濃く残っていたということだとも思われます。
 それが当今になりますと、以前某タレントがテレビで「不倫は文化だ !」と堂々と放言できるまでになりました。もっともこの発言は直後から物議をかもし、言った当人はだいぶ世論のバッシングを受けたようですが。

 ともあれ。この歌には1番の歌詞に入る前に、そんな苦しい恋のストーリーが隠されていそうです。
 ここに、携帯メールでいくらでも互いの想いを「軽いことば」で、いとも簡単に瞬時にやりとり出来てしまう当世恋愛事情との違いを感じます。そんな当今の状況を反映した、軽いノリの今時のラブソングにはみられない、味わい深い切々とした情感もあるのだと思います。
 梅雨しとしと降る中、しみじみ聴いてみたくなる雨の名曲です。

                       *

 続いて橋本テツヤ氏の一文を抜粋してご紹介します。
 
 物悲しいメロディーと昭和初期の美しい日本語の詞に感銘した多くの歌手が、歌い継いできた。
 石原裕次郎、身空ひばり、青江三奈、淡谷のり子、ちあきなおみ、氷川きよし…。
 それほどまでに魅了される理由は何だろう?現代女性にはない物静かで従順な女性像が見えるからだ。

 「♪雨に打たれて 咲いている 花があたしの 恋かしら…」
 梅雨の季節、雨に濡れて寂しそうに咲いているアジサイを、自身の姿と重ねている。
 「窓に涙の セレナーデ…」
 セレナーデはドイツ語の音楽用語で「小夜曲」のこと。夜、恋人が住む窓の下で奏でる愛の歌曲の意味だ。76年前に作られた歌とは思えないロマンチックで斬新な名曲である。

 『雨に咲く花』-歌:井上ひろし
    http://www.youtube.com/watch?v=DSGm7hFhN4g

 『雨に咲く花』-カラオケバージョン
    http://www.youtube.com/watch?v=OevGacF1aHE

 (大場光太郎・記) (初稿-08年6月22日、追加-11年6月16日)

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『日刊ゲンダイ』の芸能面下段に、「橋本テツヤ あのヒット曲を追っかけろ !」という週一コラムがあります。私はけっこう懐メロ好きなこともあって、いつも目を通し、さほど関心のない曲はそのままスルーします。6月15日付で『井上ひろし 雨に咲く花』が取り上げられていました。それでグイッと惹きつけられ、読んでこれを切り抜きました。
 一読した時この歌の私の一文を思い出し、それとプロDJの文章はどう違うのか、比較するつもりで読んでみました。
 と言うことで、今回は『雨に咲く花』を再掲載します。 

投稿: 時遊人 | 2011年6月17日 (金) 03時32分

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