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山のあなた(1)

           カール・ブッセ

  山のあなたの空遠く
  「幸い」住むと人のいう。
  ああ、われひとと尋(と)めゆきて、
  涙さしぐみ、かえりきぬ。
  山のあなたになお遠く
  「幸い」住むと人のいう。

          (上田敏訳)

     *     *     *     *     *     *     *

 《私の所感》
 はじめに、私がこの詩に初めて出会った時の思い出を述べたいと思います。
 
 今を去る四十数年前のある秋の午後。当時中学三年生だった私は、授業が終わって、学校の図書館におりました。大きな読書机に向かっている私の背後のガラス窓から、西日がやわらかく射し込んでいました。私は座って、中学生向けのある詩集を手にとって読んでいたのでした。
 その詩集を読み進めるうち、『山のあなた』の詩を初めて目にしたのです。他の詩にもましてこの短い詩になぜか心惹かれて、私はその一字一句を噛みしめながら読んでいました。するうちに、明澄な青々とした山のたたずまい、その向うに広がる青い空、そして空の彼方にひょっとして本当にあるのかも知れない「幸せな世界」などが、次々にイメージされて…。
 私はいつしか、えもいわれぬ幸福感に包まれていたのでした。

 同じような体験を、「二木紘三のうた物語」の『花の街』でも、既に記させていただきました。あの頃(思春期)の私は、W・マズローの「頂上体験(ピーク・エクスピアリアンス)」に近似した感覚に、いともたやすく入れたのです。
 「大人は子供のなれの果て」というけれど、今となっては還らざる遠い昔の貴重な体験です。                          (以下次回につづく)
 (大場光太郎・記)
  
  

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