逃げろ !
ちぇっ。頼りにならん奴等だ。
俺は必死で走りながら舌打ちする。
「奴等の一味が襲ってきたら、
みんな団結して立ち向かおうぜ !」
そう誓い合ったのに何たるザマだ。
いざその段になったらチリヂリバラバラじゃないか。
そうは言ってもこの俺も、
一味の姿を見た途端、それ逃げろっとばかりに、
真っ先に逃げ出したんだった。
するうち一味の何人かが俺を見つけ出した。
追っ手の奴等は大刀振りかざして、
怖ろしい形相でひたすら俺に迫ってくる。
それ逃げろ ! とにかく逃げろ !
俺は足ももつれ心ももつれて、
必死のあがきでひたすら逃げる。
……どれほど走ったんだろう。
と何かに蹴つまずいた。
どうやら土手の天辺(てっぺん)らしかった。
途端にごろんごろんと転がり落ちた。
えらく長い土手で、
ずいぶん長く転がり続けた。
おかげでその間、
俺様の悪行三昧の生き様を、
まざまざと思い出してしまった。
転がる痛さの上に嫌な思い出が、
次々に被さってくる。
俺の苦悩は途方もなかった。
このまま根底(ねそこ)の国まで、
永劫(えいごう)の転落か?と思った途端、
どすんと土手の下に着いた。
我ながら無ざまな格好で引っくりかえって。
ふと我れにかえって体を起こした。
その先には広々とした草原が続いていた。
緑の艶々した丈長い草が、
一帯にどこまでも生い茂っている。
草原の彼方に目をやった。
もう夜明けらしかった。
しののめの紫色の山並みが、
ただ静かに連なっている。
そのさまを見るともなしに見ていると、
一つの峰から真っ赤な朝日が、
厳(おごそ)かにぬっと現れた。
(大場光太郎)
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コメント
『星の荒野にて』『オリオン落下譚』に続いて、「夢の三部作」の完結編です。と言っても、この詩は独立した夢ではなく、『オリオン落下譚』の続きとなるものです。
ただし前の2詩は、見た夢そのままの再現ですが、この詩だけはかなり創作が入っています。もう少し詳しいことは、いずれ『夢の話(3)』で述べたいと思います。
投稿: 時遊人 | 2011年7月19日 (火) 00時51分