シュールな黄昏
何者かが遥か上空で
薄くて仄(ほの)暗いヴェールをさっとかけると
街に黄昏(たそがれ)の気配が兆す。
鳥たちは黒い影となって空高く
西の明るい世界目指して飛び去る。
夕暮れを告げる鐘の音(ね)も今は響かず
残照色に染まったビルの壁々に
遠い昔のこだまがただ虚しくはね返るだけ。
涼風(すずかぜ)が過ぎた日の歌を歌いながら
街行く人らの心にそっと触れ
埋もれた記憶をごっそり掠(かす)め去る。
広場の噴水は四方に迸(ほとばし)り
そのほとりで飛沫(しぶき)を浴びた女が
憂わしげに佇(たたず)み空を見上げて
夕月にそっと目配せする。
面(おも)を半分隠した傾いた月が
地上の街に鈍い光を投げつける。
光りに撃たれた街全体が一斉に傾いて
黄昏の底に沈みこむ。
(大場光太郎)
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コメント
今はもうありませんが、当時の本厚木駅北口広場には中ほどに大きな噴水がありました。ある夕暮れ、そのほとりでしぶきを浴びながら立っている若いスレンダー美女がいました。美女には目がない私は(笑)、見るともなしに彼女を見ていました。この詩どおりに憂わしげに夕空を見上げたりしています。そんな彼女の姿に『おっ、これは詩になるぞ』と思って作ったのがこの詩です。
確かに中空に半月がかかってはいましたが、彼女はその月にそっと目くばせなどしていません。ましてや、月の光に撃たれて街全体が傾いた事実もありません。
投稿: 時遊人 | 2012年8月 9日 (木) 02時08分