私の不思議体験(1)
ずいぶん昔のことです。今まで誰にも話したことのない、幼少時の少し不思議な体験を述べようと思います。
とは申しましても、予めお断り申し上げます。霊を見たとかUFOを目撃したとかいうことではありません。両方とも私は大いに興味があり、出来ればそういう体験に一度ならず何度でも遭遇してみたいとは思いますが。私には今のところ残念ながら、そのようなモノを視る能力は備わっておりません。
*
昭和三十二年、私が小学校二年生の夏休みのことでした。その年は、今から思えば東北地方の梅雨が長引いたのか、夏休みに入ってもスカッとした夏の晴れた日がなく、来る日も来る日も曇りの日が続きました。
そんな七月下旬のある日の夕方も近い頃(午後五時前後だったと思います)。もし晴れていれば、すぐ近くを流れている吉野川に友だちと行って、川で日が暮れるまで水泳(水遊び程度)が出来るのに…。我が母子寮の広い中庭に出て、恨めし気にその一角でぼんやり北の空を眺めていました。その時中庭に私以外人はいませんでした。
私が立っている二メートルほど右側は畑で、そこから私ら親子が居住している東寮の建物が続いており、それは戦後間もなくの頃建てられたと思しき、横に板をつないで何枚も張り合わせた板壁で囲まれていました。板壁はだいぶ前に濃茶色のペンキを縫ったものらしく、その頃ではだいぶ変色し色褪せて見えていました。また私が立っている斜め前に建物に接して三、四メートル位の高さの(今となっては何の木かさえ覚えていない)一本の木がありました。北の先十メートルほどの所には、西寮の張り出した炊事場の建物があります。その手前数メートル左側には、しっかりしたブランコが設置してあります。
その日も分厚い雲が空全体を覆い、それのみか雲が西から東へと気ぜわしげに流れているばかりでした。そんな雲が流れ行くさまや、曇って一段とくすんだ周りの様子をぼんやり眺めていると。
突然何の前触れもなく。一瞬にして、周りの景色が急に切り換ったのです。いえ。景色は同じですが、通常の景色が全く別の色合いで見えてきた、と言った方が正解のようです。
それら目に見えるもの全てが、この世のものとも思われない程の鮮やかさで、キラキラ輝いて見えてきたのです。そのさまを今形容するとすれば、まるで妖精がふわりふわりとすぐ前の木の枝を軽やかに飛び交っていそうな世界…とでも、表現すればいいでしょうか。(さすがに妖精は出てきませんでしたが。)
わずか十歳前後の子供です。その時の私は、およそ理解を超えた事態に、一体何が起きたのかといよいよボーっとして立ち尽くすのみでした。
…どれくらい続いたものでしょう。その時の時間感覚では、十五分から二十分位の長さにも感じられました。しかしいくらなんでも、そんなに長くはなかったでしょう。せいぜい数分間の不思議ショーといったところだったでしょうか。
やがてその不思議な景色はスーッとかき消えて、くすんで色褪せた元の当たり前の日常世界に戻ったのでした。 (以下次回につづく)
(大場光太郎・記)
最近のコメント