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夏の夕べの寸景

 六月のある晴れた土曜日。私は午後から本厚木駅方面にバスで出かけました。以下は、夕方帰ろうとして駅北口バス停でバス待ちをしていた時の寸景です。

 その時バスを待っていたのは、ほんの数人程度。私のすぐ前は、ある親子です。見ると、若いお母さんと3歳くらいの女の子です。女の子はうすいピンクの半そでの上着、同系色のスカート、肩から子供用の水筒を提げています。
 梅雨の晴れ間の土曜日。電車に乗ってどこか近郊の行楽地にでも行ってきた、その帰りなのでしょう。
 母親は、白い帽子をかぶった小柄でポッチャリ太目の、本当に若いお母さんです。女の子の方はちょうど可愛い盛りの年頃で、幼児語を大いにとどめた話し方で、しきりに母親の手をぐいと引っ張ったりしながら話をしかけます。それに対して「うん。うん。そうねえ。」などとうなずきながら、母親はうるさがらずにきちんと答えを返しています。
 よく見ると、なるほど親子です。顔立ちがどことなく似ています。

 そのうち子供はバス待ちの列を離れて、どこかに走っていきました。母親はそれとなく我が子の姿をしっかり目でたどっています。私もどこに行ったのだろうと思って、斜め後ろのその方に振り向きました。
 そちらの方向は駅北口に向かう広場の一角で、見ると一羽の鳩がいます。なぜか鳩は一ヶ所にうずくまったまま、動こうとしません。女の子は、そんな鳩のようすが気になって走り寄っていったのでしょう。女の子は鳩から少し離れて佇みながら、鳩を指差して、
 「ママァーッ! このはと、うごかないよ。」
 「そうねえ。でも、もうこっちに来なさい!」
 そう促されて女の子はもっと見ていたそうなそぶりでしたが、母親のもとに走って戻ってきました。

 例の鳩は、まだ同じく足をたたんで地面にうずくまったままです。そもそもこの駅前広場は、常々たくさんの鳩がたむろしてしているのです。中には、スナック菓子やパンくずを与える人もいるようです。鳩たちも慣れたもので、通る人たちを特段怖れるようすもなく、人が行き交う側を平然と歩いていたり、何かをしきりについばんでいたりしています。
 『あの鳩はどうしちゃっんだろう?どっか具合でも悪いんだろうか?』
 すると駅の方から歩いてきた年配の男性もその鳩に気がついて、私と同じ疑問をもったらしく、その鳩のようすを見ようと覗き込むように近づきました。
 さすがに鳩もそこまで近づかれては…。途端に何食わぬ顔ですっと立ち上がり、例の鳩歩きですたすた歩き出し、大きな円形花壇の陰に隠れてしまいました。

 例の女の子は、鳩のことなどすっかり忘れて、母親となにやらお話に夢中です。すると母親が鳩がいた方をふと見て、
 「あらっ。いなくなったわねぇ!」
 「ホントだ。どこいったんだろ?」と女の子。

 以上はこれといってどうということのない、とある夏の夕べの一光景でした。
 (大場光太郎・記)

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