身につまされる話
先週のある日の昼過ぎ、ある人から電話がありました。
建設業を営む50代前半の社長からです。住まいは、神奈川県S市内の瀟洒なマンションの一室。そこを会社の本店所在地にしておりますが、実際は支店登記している都内某所に賃貸しているビルの一室を拠点として活動しています。
その社長とは、別の会社の取締役だった何年か前に知り合いました。その後諸事情があり、自分の新会社(株式会社)を設立しました。建設業が目的の会社ですから、かねてからのよしみで建設業許可申請を依頼され、以後1年1回連絡を取り合うくらいの関係です。
普段は私の方から電話連絡することはあっても、先方から電話というのは先ずありません。ですからその社長からと分かって、『何ごと?』と少し身構えました。
簡単な挨拶の後、すぐに肝心の用件です。
「実は、親父から相続された田舎の不動産を女房の名義に変えたいんだが、簡単にできるものなの?」
「そうすると所有権移転登記ですね。まあ簡単にとはいきませんが、そう難しくもありません」
「出来ればすぐやりたいんだよ。実はねえ…」
と少し言いよどみながら、くだんの社長はそれに至るいきさつを語り始めました。
その会社の業務内容は、主に「フライド○○○」などのフランチャイズ店舗の新設、改装などの店内造作を一手に引き受けてこなすというものです。「フライド○○○」などから一旦元請の会社が仕事を受注し、その下請けとして都内はもとより関東一円を広くカバーし、業績も年々増加の一途をたどっているようでした。
ところがこの度、主要元請会社が倒産し、そのあおりを受けて同社も億以上の負債を抱え込んでしまったというのです。
「いやあ。それは大変ですねえ」。私は同情を禁じ得ませんでした。
「そうなんだよ。もう会社も続けられないから、近々閉めようかと思ってるんだ」
今回の件も、債務から逃れるためのやむを得ぬ自衛手段の一環なのでしょう。
「費用はどれぐらいかかるの?」
「そうですねえ。登録免許税など諸費用すべて込みで、○万円くらいですかねえ」
「そんなに高いの?今はとても払えないよ。自分じゃ出来ないの?」
「素人がやろうとすれば難しい点がいろいろありますが、やって出来ないことではありません」
「それじゃあ、一応やってみて、それでも分かんなかったら頼むことにしますよ」
以前でしたら、そんなお金どうということのない金額だったでしょうに。
それにしても。当然会社は倒産、一旦は社長個人も自己破産でしょう。そうして業務上の債務はすべて免れたとしても、今後どうするのでしょう?最低数年間は、建設業を営むことは許されません。肝心要の業務を主体的に行うことができないのです。
順調そうにみえたのに、予期せぬ事態です。しかし今この時代、建設業で特に民間相手の仕事は相当慎重に事を運ばないと、そういうリスクは常につきまとっているとみるべきです。
今回初めて知ったことにはくだんの社長は私と同じ東北出身らしいし、馬力のある人だし、まだ50代前半なのだから、ここしばらくは臥薪嘗胆(がしょうしんたん)、じっと辛抱して人生の再起を図ってもらいたいものです。
(注記) 上記内容は、すべてフィクションとしてお取りください。
(大場光太郎・記)
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