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絶顛(ぜってん)

  絶顛―切り立った途方もなく高い峰
  それは心の中で
  大きく立ちはだかって
  私の行く手を阻む。

  いつかは越えなければならない絶顛
  いまだ越えられない絶顛。

  いつかそのうち いつか必ず…
  いつか…いつか…いつか…
  いつかとは一体いつか?
  時間に縛られているこの世界でのいつかだろうか?
  それともこの世界では遂に越えられずに
  時間を超えた向うの世界に
  その登攀(とうはん)を持ち越すのだろうか?

  そもそもこんな迷惑千万な絶顛を描き出す
  心とは一体何なのだろう。
  知ってるようで実は知らない我が心。

  心は良いものでも悪いものでも
  何でも好き勝手に描き出しつくり出す名人だ。
  すると絶顛も実は心がつくり出した
  幻影だったのだろうか?

  そうだ。我が心がつくり出した夢幻(ゆめまぼろし)だったのだ。
  ならば 喝! 喝! 喝! 消えろ! 消えろ! 消えろ!
  消えたぞ! 消えた! さしもの絶顛が消えてしまったぞ!
  夢の中で今にも跳びかからんばかりの猛獣が
  夢主(むしゅ)の意志次第で
  おとなしい飼い犬に姿を変えるように
  かの絶顛がなだらかな小高い丘に変わってしまった。
  何ーんだ。長いこと恐れていたのは一体何だったんだ。
  
  とにかくめでたい。さあどうしようか?
  あの丘越えて 色とりどりの花咲く丘越えて
  今度は今まで行けなかった世界へ行けそうだ。
  行こう! さあ行こう!
  行って今まで出来なかったことをかの地で叶えるのだ。

  先ず女王様のように素敵な女性と巡り会おう
  そうして結婚して世界一幸せな家庭をつくろう。
  次に何かの分野で際立って
  六十五億人からあまねく賞賛される有名人になろう。
  遂にはかつて誰も手にしたことがないような
  巨万の富をこの手で掴み取るのだ。
  そうだ! 欲張ってそれらの全てを手に入れてしまうのだ!

  …しかし、と。夢想はここでハタッと止まる。
  待てよ。あの絶顛が丘に姿を変えたように
  それらを全部手に入れたとて
  それらも夢の夢のまた夢だったらどうなる?
  夢の夢のまた夢でどんな輝かしいものを
  手に入れたって一体それが何だって言うんだ。

  絶顛…小高い丘…咲き乱れる花々
  …彼方の理想の地…理想の女性
  …これ以上ない名声…巨万の富…。
  皆な夢。夢。夢。夢。夢。夢。…。
  あることないこと何でも作り出す我が心。

  あヽ何が何だか訳が分からなくなってしまった。

                    (大場光太郎)

(追記) 心とは何か?これを詩という短いもので表現するのは
難しいですね。人はもちろん夢であろうと何であろうと、この世で
とにかく、日々精一杯努力して生きていかなければなりません。
「真剣に悩んではいけません。ふざけていい加減に遊ぶのも
いけません。真剣に騙されて真剣に遊ぶのです。」
忘れましたが、誰かの名言です。  

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