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「そんなことは大した問題じゃないのだ」(2)

 紫色の法衣の人(実はS大師)は、スコットランド紳士の半生のすべてを知っているらしいことに、その人は改めて驚きました。「私は長い間君と一緒にいた」という言葉が、文字通り真実であることを覚ったのです。
 それ以降の二人のやり取りなど重要なことが述べられていると思われますので、少し長くなりますが『解脱の真理』本文をそのまま引用したいと思います。
                          *
 私は納得がいくと、今度は私がこれまでに学び知ったことをこの方に知って貰いたいという強い欲望がでた。それで私は哲学や高度の形而上学について講釈をしだしたのである。いくばくかの時間(というのはもはや時間はこの世から消え去ったかと思われたからである。どれだけの時間がたったかは分からない)の間その方は非常に静かに聞いていた。私はある程度の印象は与えたと思った。私には少なくとも関心を寄せるだけの価値はある筈だと思った。やおらその方は次の言葉を発した。
 「息子よ、そんなのが本当かどうかは大した問題じゃないんだよ。」
 もし人が大きなハンマーで私をなぐったとしてもこれ程までの驚きは喫しなかったろう。そのあとから又語る声が聞こえた。
 「息子よ、明日また会おう。君の旅行がうまくいくようにみんな準備がすすんでいるのだよ。みんな手筈は整いつつあるからね。」
 その方は向きを変えると完全にカラッポになってしまった私を残して歩き去ってしまった。
 然り、私はカラッポであった。
 その方の口数少ないその話を私は深く考えてみた。その言葉は私を完全に変えてしまった。私が後生大事にこれまで持っていたものはみんな私の心の中で造り上げたものだったのだ。そのために自分の生活における最大のものを私は失ってしまっていたのだ。生々(いきいき)として水々しく生きている『今』を失っていたのだ。私の持っていたのはただの言葉、考え、思想、心像(イメージ)にすぎなかったのだ。この長い年月の間何という馬鹿なことをしてきたものか。
 それにしてもこの短い言葉の何という有り難さよ。お蔭で、これまで探し求めてきたものが今度こそ遂に見つけ出せるぞ、と心は思い勇むのであった。
 翌日その方は満足の微笑みを浮かべながら早目にやって来られた。
 「息子よ、これで君は人間を解脱させる真理の第一課を学びとったのだ。君はこれまで縛られていたのだ。しかし今や自分を解放し始めたのだ。」
 「そうです。あなたがしてくだすったのです。」
 「いやいや、君に受け容れる用意が整っていなければ、私の言葉でも出来なかったのだよ。」   (以上、本文P35~P37まで引用)   (以下次回につづく)

 (大場光太郎・記)                                   

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