10月はたそがれの国
『10月はたそがれの国』という、レイ・ブラッドベリの短編小説集があります。
かつて『何とシャレたタイトルなんだろう』と思いながら、少し読んだことがあります。レイ・ブラッドベリ(1920年~)は、アメリカイリノイ州出身のSF作家で、「SFの抒情詩人」と呼ばれています。(本の所有や読書が禁じられた架空の人間社会を描いた、『華氏451度』は特に有名です。映画化もされています。)
今は時あたかも10月。季節柄、ふとそのタイトルのことを思い出しました。読んだのはずっと以前、20代の終わりか30代前半頃のことです。当時は推理物やSF物などの軽いものを読んでいました。もっぱら文庫本です。この手の本を扱っている出版社と言えば創元社という出版社です。ですから「創元推理文庫」「創元SF文庫」がけっこうたまりました。
本というものは、とにかく知らぬ間にどんどんたまっていくもので(これが金銀財宝だったら、どんなにか良かったことでしょう!)、狭い部屋のスペースでは、常に何かの本を処分しなければなりません。そこである時思い切って、『もう推理物やSF物は卒業だ!』とばかりに大量に処分してしまいました。その中に、この『10月はたそがれの国』も入っていたようです。
今回どんな内容だったろうと調べようとしましたが、見つからないところをみると、きっとそうです。
『今さら改めて買うのも癪だし』と思い、同タイトルでグーグル検索してみました。14万件以上出てきました。その中でトップ面上位ランクを当たってみると―。私はてっきり、サーカス小屋やカーニバルでの回転木馬などをモチーフにした、幻想SF譚かと思っていましたら。少し違うようです。(いえ、それもいずれかの短編にあるかも知れません。)
レイ・ブラッドベリは、かのエドカー・アラン・ポーの衣鉢を継ぐ者とも言われています。まさにそういうジャンルの、闇や日陰に息づくうら寂しい奇譚を叙情的に描いた短編集のようです。同人の名声を確立した処女短編集も含まれているようです。
びっくりなのは、原作のタイトルは『THE OCTOBER COUNTRY』であり、そのまま直訳すれば単に「10月の国」です。『なーんだ、つまんないの』というところです。そんな平凡なタイトルでは売れないだろうと、『10月はたそがれの国』という見事なタイトルにして出版したのは、創元社だったわけです。(翻訳初版・1965年12月24日)
詩でも例えば、カール・ブッセの『山のあなた』や、ヴェルレーヌの『落葉』などは、原詩よりも上田敏の訳詩の方が優れていると言われています。外国の歌の訳詞でも、そういうケースはままあるようです。この本のタイトルも、その一例と思われます。
このように書いてくると、読んでみたい気持ちがまたふつふつと湧いてきました。時あたかも「Deep October」。一年でいえば、やがて冬という「夜の季節」を控えた、なるほど「たそがれの季節」。それを「10月はたそがれの月」とせずに、原題に沿いながら『10月はたそがれの国』としたのが、なんとも秀逸です。すぐにでも、読みたくなってきちゃった !
(大場光太郎・記)
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コメント
本記事公開はちょうど1年ほど前のこと。早いものであれから1年が経ったわけです。おかげ様でその後、本記事へのアクセスがぼちぼちあります。私自身気に入っている記事の一つですから、ありがたく思います。
本文中でも述べましたが、やはり『10月はたそがれの国』という詩的なタイトルには魅かれます。それで同書を『読んでみよう』となる人もいることでしょう。確かに平凡な日常的10月が、「たそがれの国」と言われると、にわかにファンタジックで非日常的なかけがえのない月であるように思わてきます。
我が国でも10月は古来、特別に「神無月(かんなづき)」と呼ばれてきました。日本中の神々がこの月は、皆出雲(いずも)に集結してしまうため、どこもかしこも神様がいなくなってしまうというのです。しかし集まった先の出雲だけは別で、かの地だけは大いに「神有月」となるわけです。ただしその場合の10月は、正確には「旧暦の十月」のことです。しかし近年は、新暦の10月の異称としてもオーケーのようです。
なお、本記事末尾で「すぐ読んでみたくなった」と述べましたが、実はまだ読んでいません。というのも、あれから早速駅前の大きな書店に行ったのですが、同書置いていなかったのです。取り寄せてもらうのもおっくうで…。ついそのままになっていました。そこで今度は「いつかそのうち…」と改めさせていただきます。
投稿: 大場光太郎 | 2009年10月23日 (金) 00時40分