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コスモスなど

  コスモスなどやさしく咲けば死ねないよ    鈴木しづ子

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《私の鑑賞ノート》
 鈴木しづ子。大正8年(1919年)東京生まれ。昭和15年専修製図学校卒業。工作機械工場に勤める。社内の俳句部に入り、句作を始める。この会を通して松村巨秋を知り師事。主宰誌「樹海」に属する。戦後『春雷』『指輪』の二句集を刊行。

 今そしてこれからは「コスモスの季節」です。当ブログでは「コスモス」については気の早いことに、5月から記事にしておりました。特に今年は、地植えのコスモスが梅雨頃からぼちぼち咲き始めました。以来それとなく注意して見て歩くと、一ヶ所だけではなく方々のコスモスがそうなのです。 『当地だけ?』と思っていたら、関東北部にお住まいと思われるある人から、「うちの地方でも咲いてます!」というコメントが寄せられました。
 本来ならば、秋冷至る中秋から初冬にかけて咲く「秋桜(コスモス)」が、夏本番前から咲いている。これは一種異様な光景でもありました。
 
 そうしてコスモスは、本来の季節を迎えて何ごともなかったかのように、今を盛りとあちこちでいっぱい可憐な花を咲かせています。(どうも以上の文は私の認識不足で、コスモスは「夏本番頃から咲き始める花」のようです。当記事の「仙人様コメント」をお読み下さい。)
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 さて今回は、そのコスモスの名句のご紹介です。
 「第二芸術論」によって、かつて近代俳句をコテンパンにこきおろした、フランス文学の「権威」であらせられる桑原武夫大先生などがこの句を読んだとしたら、「フフン。何だ、こんなの。コスモスがやさしく咲けば死ねないよ、だ?それがどうした」と、せせら笑うことでしょう。
 しかし私は、この句に初めて出会った7年ほど前、強い衝撃を覚えました。そして『あヽ心に訴えかけてくるいい句だなあ』と、素直に思いました。各自がある句に接して、『あヽいい句だ』と思ったとしたら、それはその人にとっての「名句」なのです。「ここがこうで、ああしてこうして…したがって名句だ」式の、変な小理屈など必要ありません。 (桑原大先生への反論などは、近いうちに一文として公開の予定です。)

 鑑賞の参考に、この句の背景つまり作句者のことを少しご紹介したいと思います。
 鈴木しづ子は、婚約者を戦死で失っています(生年から推定して、終戦時26歳くらい)。昭和21年2月紙不足を極めていた中、『春雷』という新鮮でナイーヴな感覚の句を散りばめた小冊子句集を出版し、当時の俳壇の絶賛を浴びました。
 しかし彼女の人生の歯車は、既に狂い始めています。やがて名曲『星の流れに』のように身を持ち崩すことになり、東京から岐阜の現・各務原市(かがみがはらし)に移り住みます。そこの米軍キャンプの米兵と深い関係になります。が、その米兵は1950年に始まった朝鮮戦争に派兵され、麻薬中毒で変わり果てた姿となり佐世保に帰還。本国に帰ってその後病死したことを、彼女は翌年の賀状に紛れていた米兵の母親からのポストカードで知ります。
 彼女の人生はまさに、「戦争」に翻弄され続けた人生との感を深くします。

 冒頭の句は、その年の秋に詠まれたものといわれています。この一句に、しづ子はどれだけの想いを込めたのだろうか?もうこれ以上説明は不要でしょう。
 鈴木しづ子、これ以降消息不明。その後彼女は「娼婦俳人」などと呼ばれ、ある意味伝説的な女流俳人となっていきます。

 私たちは「俳句」を読んだり評したりする時、この極めて短い詩形式に、時に精魂を込め時に血の滲むような想いで句作した、多くの先人がいたことを決して忘れてはなりません。
(大場光太郎・記)

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コメント

コスモスは、その昔からそうですが、真夏から咲き初めて夏の花が終わっても、更に本番とばかりに咲く、非常に寿命の長い花の様です。
我々が育った時分から、夏の田圃の畦に咲き、休田のスペースには一面に咲いていました。
昭和公園の大面積のコスモスも、夏からです・・・・。
最近の気象のせいではなさそうです。

投稿: 仙人 | 2008年10月 7日 (火) 07時34分

仙人様
 コスモス。そうだったのですか。
 私は名前からして「秋桜」なもので、てっきりコスモスは「秋になってから咲かねばならない花」と、思い込んでおりました。そして、『去年までは確か、こんなことはなかったはずだ』とも。しかし「身近な自然」をじっと観察し出したのは、当ブログに折りにふれてそれを記事にしてからなのかもしれません。
 本当に見聞が広くていらっしゃる仙人様には、いつも新事実をお教えいただきます。(本記事中に注釈を入れさせていただきました)。今後とも、よろしくお願い申し上げます。
 

投稿: 大場光太郎 | 2008年10月 7日 (火) 10時49分

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