レッドクリフ&三国志(7)-赤壁大戦
その後一日経っても、二日経っても北風の向きが変わる兆候は一向にありません。呉軍大都督周諭は、何度も帷幕の外を覗いながら、『孔明の奴、万一東南風が吹かなかったらどうしてくれるんだ』とヤキモキして、ろくに食事も喉を通らぬほどでした。すると孔明が祈り続けてちょうど三日目の夕方のこと、風向きが変わって待ちに待った東南(たつみ)の風が吹き出したではありませんか!
時は西暦208年初冬旧10月(新11月下旬)。決戦場は、長江流域の水陸複雑に入り組んだ赤壁付近。
周諭は、周りがとっぷりと暮れ江上に夜霧が立ちこめた頃『ここぞ!』とばかりに、全軍に出撃命令を発します。かねてからの手筈どおり、燃えやすい枯れ草や柴に油を沁み込ませた船に黄蓋が乗り込み、二十艘くらいの快速船を引き連れて先陣を務めます。「それ、黄蓋将軍に続け!」とばかりに、三百余艘と数こそ劣れ、日頃鍛え上げられた呉国水軍は、第一艦隊韓当、第二艦隊周泰など四艦隊に分かれて、皆それぞれに勇躍して長江を魏軍目指して粛々と出撃していきます。
周諭はまた孔明暗殺の件も抜かりなく、徐盛ら豪の者に指示して、南屏山に向わせます。徐盛らは七星壇を一気に昇って祭壇についてみると、孔明の姿はどこにも見当たりません。とうに周諭の奸計を見破って、風が起こるや壇を下りたのです。そして劉備が差し向けた船に乗り込みます。徐盛らも後を追いますが、孔明は既に船上の人。それに護衛に当たっている者はと見れば、長橋の勇者趙雲ではありませんか。「これはとても太刀打ち出来ぬわ」とばかりに、引き上げます。
こうして孔明は劉備の待つ夏口に無事帰り着き、休む間もなく魏軍掃討に向けて劉備軍の指揮に当たります。
呉が思い描いた作戦は、ずばり当たりました。
今夜黄蓋が投降してくると、呉の快速船より先触れがありました。曹操以下旗艦上でそれを待っております。すると、風向きが急に生温い東南風に変わったではありませんか。するうち遠くの江上を、夜霧をぬって駆けてくる船が確認できます。「あれは黄蓋の船に違いない」。注視していると、どうやらそのようです。しかし参謀の一人が、その船の異変に気がつきました。投降船ならそんなに積荷があろう筈がないのに、その船はずっしりと船体が沈みこんでいたのです。東南の風。燃料物満載の船…?。この時曹操以下誰もの胸中に、只ならぬ嫌な予感が走ります。
「その船待て。止まれ。停船だ」。しかし向うの船隊は構わず、魏の艦隊目指して突進してきます。今さら小型艇での追撃も適わぬ間近にまで迫っています。
至近距離まで近づいた黄蓋の船から、そのうち火矢が魏艦隊目がけて雨あられと降りそそいできます。一艘に火がついて燃え出すと、次々に連結した船に延焼し、魏艦隊は瞬く間に一面火の海です。のみならず、後続の呉の艦隊が続々と襲い掛かっては、更に火を放ちます。
折からの強い東南の風にあおられて、海上のみか陸上の広大な魏陣にも延焼し、各陣所の建物、糧倉、柵門、厩舎などの建造物はたちまち紅蓮の炎に包まれていきます。
呉軍の仕掛けた火攻めによって、およそ戦闘らしい戦闘もないまま魏の大軍は総崩れの大敗を喫してしまいました。一夜のうちに、百万と豪語していた(実数は二十余万。対して呉と劉備の連合軍は数万)魏軍は、その三分の一以下に減少してしまいます。
更に魏陣の背後の烏林(うりん)などに回っていた、呉将甘寧や大史慈などに挟撃され、劉備軍もその側方を衝き、いまや魏軍は指揮系統が完全に失われ、敗走に敗走を重ねます。この大戦で生き残った魏兵たちも、逃走中折りからの寒さと飢えと疫病などにより、無事北の故郷に帰還できたのは少数と言われています。
魏の丞相・曹操もまた燃え盛る旗艦から辛くも脱出し、一面戦火の自陣から張遼や徐晃などの側近の武将に護られ窮地を逃れます。何とか追っ手を振り切り、時には寒さの中氷雨でぬかるんだ山道を辿ったりして、わずか数十人と共にやっとの思いで許都にたどり着きました。
以後曹操は、その存命中二度と南征に赴くことはありませんでした。こうして曹操の大野望は阻まれ、北に魏、南に呉、西に蜀という国が鼎立する三国時代へと、中国史は、白面の青年・諸葛孔明が想い描いた大計通りに進んで行くことになるのです。 ― 完 ―
(追記)今回の記事をまとめるに当たり、以下の資料を参考にしました。
吉川英治『三国志』
フリー百科事典『ウイキぺディア』より「三国時代」「赤壁の戦い」等の項
なおいずれまた、赤壁以降の三国志をご紹介できればと思います。
(大場光太郎・記)
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