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田母神論文をめぐって(5)

 次は(4)多くのアジア諸国が太平洋戦争における我が国の戦争行為を評価している。ということについてです。
 田母神は述べています。「私たちは多くのアジア諸国が大東亜戦争を肯定的に評価していることを認識しておく必要がある。タイで、ビルマで、インドで、シンガポールで、インドネシアで、大東亜戦争を戦った日本の評価は高いのだ」。これについて『朝生』で、社民党衆議院議員・辻元清美が、同論文の選考委員の一人だったジャーナリスト、産経新聞客員論説委員・花岡信昭に、「どこの国のどんな人がどう評価しているのか、具体的に教えて欲しい」と問いただしました。しかし同氏は答えに窮して無言でした。
 田母神も抽象的にではなく、個別具体例を上げて「このように評価しているではないか」と述べてもらいたかったと思います。

 思えば我が国はかつての戦争への贖罪の意識があるからなのか、田母神が列記したアジア諸国には特に手厚いODA(政府開発援助)などを通して、多大な援助を続けてきました。それが効を奏して、同戦争における日本軍の行為に対する負の記憶が薄められ、それなりの評価さえ与えている面があることは否定できないと思われます。
 それに肝心なことは、それら東南アジア諸国は我が国とは一定の距離的隔たりがあることです。そのことが互いの戦争の記憶を希薄化させている面があることも考慮すべきだと思います。
 対して、中国、韓国は我が国と海を挟んで直接国境を接している、密接な近隣国同士です。田母神も触れているとおり、韓国とは竹島の領有権問題で係争中でもあります。また中国とは、尖閣諸島領有権問題が時に先鋭化することがあります。このように利害関係や愛憎関係の根深さは、他のアジア諸国とはおよそ比較にならないのです。

 最後の(6)東京裁判(極東軍事裁判)は、勝者が敗者を裁いた不当な裁判である。同裁判に日本国民はマインドコントロールされていて、63年後の今日もそれにまどわされている。という問題についてです。
 「東京裁判は不当」とする説は、ひとり田母神のみならず、A級戦犯だった岸信介を祖父に持つ安倍晋三など、中堅・若手を中心として自民党議員の中にも多くいるようです。(そしていずれも田母神と同じく、「大東亜戦争肯定論者」たちです。)
 「勝者が敗者を裁いた」それゆえ「不当である」という理屈です。しかしこれは前回述べましたとおり、「戦争」とは古今東西のどの戦争においても究極の不条理劇です。その最終的決着である軍事裁判もまた、不条理な面があることは仕方ないことなのではないでしょうか?
 もし「不当だった」と言い張るのなら、負けて裁かれることになる戦争など、始めからしない方がよかったのです。なのに当時の軍部首脳や為政者は確たる勝算もないまま戦争に突っ走り、日本国民のみならず近隣諸国に多大な損失と被害を与えました。この事実だけでも、裁かれて当然なのではないでしょうか?
 
 東京裁判については、『朝生』で姜尚中が洞察力ある発言をしていました。
 つまり、その東京裁判を当時の日本は受け入れたのであり、また「国体護持」の必要から昭和天皇をはじめとする皇室も認めた。それの受容の上に立って、その後の日米関係も進んできたのだし、天皇制も象徴天皇として存続が可能になった。何よりもその延長線上に日米安保条約が締結された。このように戦後日本社会の出発点となった東京裁判が不当と主張するのであれば、日米安保を含めたすべての日米関係を根本から見直さざるを得なくなり、良好な(?)両国の関係は完全に決裂してしまうことになる。
 以上が姜尚中の発言です。極めて論旨明快です。これに対して、田母神等はどう反論するのでしょう。  (以下次回につづく)
 (大場光太郎・記)

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