神奈川県庁本庁舎にて(2)
神奈川県庁本庁舎の屋上には、何人かの人がいました。いずれもお役人のようです。この屋上だけが唯一の喫煙場所になっていて、業務の合い間横浜の景色を眺めながらの贅沢な一服なのでしょう。中には『アンタも一服?ホントかよ』と思うような、県の制服に身を包んだ知的で綺麗な女子職員が混じっていたりします。
もちろん屋上からは、横浜市街が360度ぐるりと見渡せます。しかしどうせ横浜に来たからには、自ずと横浜港の方向に視線が惹きつけられ、足は自然とそちらの壁ぎわへと向ってしまいます。
早春の淡い西日を浴びて、横浜港が大パノラマで一望できます。すぐ目に飛び込んでくるのが、何といっても左手の横浜赤レンガ倉庫、そして真ん中から右よりの大桟橋(横浜港大さん橋国際客船ターミナル)です。そのさらに右手は山下公園ですが、手前の大きなビルに阻まれて全体は確認できません。
さらには向う岸の神奈川区や川崎市鶴見区などの途切れることなく建ち並ぶ建造物群が、夕霞に霞みがちに見えています。本夕さして風はなく、鶴見区の工場の高い煙突から白い煙がほぼ真上にもくもくと立ち上っているのが認められます。
その間港内を中くらいの大きさの真っ白い客船が、ゆっくりこちらに向って来ます。少しすると、赤レンガ倉庫から張り出した停船所に着船しました。乗客を降ろすのでしょうか。
横浜港に接する手前に、赤レンガ倉庫や大桟橋埠頭そして山下公園などに行くための、高架の遊歩道が見られます。老若男女さまざまな人がひっきりなしにそこを行き交っています。その道を中央部から視線を左に赤レンガ倉庫の方にたどってみると、なるほど名高い観光スポットの一つなわけです。その手前の道あるいは倉庫前広場に、小さな人影がいっぱい集まっているのが認められます。
そうこうしているうちに、停船していた例の客船がまた出航していきました。新たな乗客を乗せ終わったのでしょうか。まるで亀の歩みのように、じれったいほどのろのろです。
するうち、倉庫と大桟橋埠頭のちょうど中間くらいの海面でパタッと停まってしまいました。『んっ?』と思って見守ること何分か。そのうちゆっくりゆっくり時計回りに旋回し始めました。『そうか。あそこまで船尾方向から進んで、本来の向きに変えてるんだな』。そのとおりで、海面に丸いやや大きな波紋を広げてぐるっと180度向きを変えていきます。その時一瞬、見えている側の黒い船窓が西日にキラッと光りました。そしてまた何分かのじれったい停止。それから静かに動き出しました。
後には小さな水脈(みお)を残しながら。一時大桟橋の陰に隠れ再び姿を現して、そのままゆっくり右手の港の外へと。
…… ……
黒い煙をはきながら
お船はどこへ行くのでしょう
…… ……
私は紫煙をくゆらしながら、『みかんの花咲く丘』を口ずさんでいました。お船は本当にどこへ行くのでしょう?早春の潮風に吹かれてどこまでも…。
ぼんやりそんなことを想う、それはつかの間ささやかなロマンです。 ― 完 ―
(大場光太郎・記)
『第22回・サラリーマン川柳』について、くまさん様と大変有意義な意見交換ができました。そのほぼ全文を、以下に公開させていただきます。
*
第一生命の「サラリーマン川柳」は、私も毎年楽しみにしているファンの一人です。思わず噴出したり、ニンマリしたり、身につまされたりと、本当に秀逸な作品が多いのに驚かされますね。笑いは何より心のゆとりの証しですし、ウイット、諧謔は知性の閃きです。それにつけても痛感するのは、日本の政治家に見るこの方面での素養の乏しさです。国会での答弁のやりとりにも、いま少しこの精神がほしいところです。麻生太郎氏のお祖父さんなどは、英国仕込のウイットがありましたね。私は川柳も好きですが、狂歌や都々逸も大好きです。(シブ過ぎますか!)
ところで今日、北陸でも春一番が吹きました。春といえば、私の大好きな蜀山人のこんな狂歌があります。
『 早蕨の 握りこぶしを振り上げて
山の横づら はる風ぞ吹く 』
また、毎週土曜日のNHKラジオでやっている「織り込み都々逸」という番組も好きでよく聞きます。ちなみに、私の一番好きな都々逸はこれです。
『 あきらめましょうよ あきらめました
あきらめ切れぬと あきらめた 』(都々逸坊扇歌)
大場様は都々逸のほうはいかがですか?
投稿: くまさん | 2009年2月13日 (金) 22時00分