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『天地人』について(5)

 第11回の今回は「御館(おたて)の乱」。『天地人』前半のクライマックスの真っ只中という感じです。何度も言うようですが、戦国時代はやはり「戦乱」です。戦乱あってこその戦国ドラマです。日常平時をだらだらと描かれて、その中で「義と愛」を教訓的に直江兼続(妻夫木聡)などに語らせても、つまらないし、しらけるばかりです。
 神をも仏をも恐れぬ織田信長(吉川晃司)ならいざ知らず。謙信も兼続も確かに、戦国の世にあっては稀に見る清廉潔白の武将だったのでしょう。しかし時は、下剋上(げこくじょう)の血で血を洗う戦乱の世です。果して、「義と愛」だけを金科玉条の如く掲げて生きていたものか。大いに疑問に思います。

 市場原理主義を本格導入以来、経営陣・株主優遇、代わって社員は冷遇。のみならず厄介な正規社員より、使い勝手のいい非正規社員をどんどんふやし、いざとなれば首切り御免。また外資系大歓迎、我が国の資産はどんどん外国に流出OK、代わって地方切捨て御免。……。
 大河ドラマ制作局はそんな世の中で、米沢に減封(げんぽう)されても必死で家臣団を守り抜いた直江兼続こそ、リストラの嵐吹き荒れる世の「鑑(かかみ)」とばかりに、「義と愛の人」として取り上げたのでしょう。分かります、確かにその趣旨は。

 しかしならば言いますけど。それならこうなる前に、何でもっと早く「市場原理主義待った!」「外資系進出待った!」「改正(改悪?)派遣法待った!」と、ニュース解説やNHK特番で声を大にして言ってくれなかったのでしょう?NHKには、先の読める優秀な解説委員がキラ星の如く揃っているではありませんか。
 でも無理ですね。政権与党に予算編成権をしっかり握られているのですから。

 さて今回です。前々回、前回に引き続き率直に面白かったと思います。理由は冒頭申し上げたとおりです。
 謙信(阿部寛)亡き後の家督を巡る、上杉景勝(北村一輝)と上杉景虎(玉山鉄二)の争い。景勝は長尾政景の子、景虎は北条氏康の子。血はつながっていなくても、共に謙信の養子で義兄弟の契りを交わした間柄。それに景勝の妹・華姫(相武紗季)は、景虎の妻。したがって景勝の実母・仙桃院(高島礼子)は景虎にとっても義母。複雑な人間模様が絡み合う、骨肉の争いです。

 謙信が前もってきちんと、家臣団に「我が後継は○○である」と宣言していれば、凄まじい内乱は避けられたかもしれません。前回述べたとおり、景勝、景虎どちらも可愛く、甲乙つけがたく迷っているうちに死去してしまったのか。あるいはどちらを後継者にと腹案はありながらも、もしそれを明確に打ち出してしまうと、鉄の団結を誇った上杉軍団に綻びが生じかねない、それを恐れて躊躇していたのかもしれません。
 一説には謙信が兼ねていた関東管領職を景虎に、越後国主を景勝にと考えていたという見方もあるようです。しかし確実な根拠はないようです。

 ドラマを離れますが。景勝役の北村一輝(きたむら・かずき、39歳)そして景虎役の玉山鉄二(たまやま・てつじ、28歳)、どちらも良い役者ですね。二人ともなかなか良い味出しています。
 北村一輝の方は前から知っていました。‘06年のTBSドラマで『夜王(やおう)』というのがありました。新宿のホストクラブ・ロミオでの、NO1ホストを巡る熾烈な闘いのドラマです。さながら戦国時代の権謀術数を見る思い。面白くなって、ドラマなどめったに観ない私が、とうとう最後まで観てしまいました。不動のNO1ホストとして、ヒーロー・的場遼介(松岡昌宏)を痛めつける聖也というワルの役でした。これが格好良く決まっていて、以来ひそかに注目していました。
 また玉山鉄二の方は、今回のドラマで初めて知りました。やや演技をしすぎているところが見られるものの、若いだけに今後の活躍が楽しみな役者だと思います。

 (大場光太郎・記) 

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コメント

 僭越な言い方ですが、大変キビキビした小気味良い文章なので、一気に読ませていただきました。御館の乱、骨肉の争いの典型ですね。結果はご覧の通りですが、当の謙信は地下でこの結末をどう思っていたでしょうね。それにしても、日本の歴史の中で最も興味をそそられるのは、やはり戦国時代でしょうね。戦国武将の誰を採り上げても、優に一遍の小説を書けると思います。しかし私が最も関心を持ち心を惹かれるのは、親兄弟の政略の犠牲となりながらも、女性としてまた人間としての尊厳を失わず凛として生きていった、多くの婦人たちです。たとえば、そう、武田勝頼夫人のような・・・。

投稿: くまさん | 2009年3月16日 (月) 22時44分

 私が若い頃仕事上の知人で、戦国時代と明治維新関係の本だけを集め読んでいた者がいました。借家の一間の本箱がその関係で埋められているのです。他の文学書など一冊もなく。私より2歳ほど若いのに、まあ感心するやら呆れかえるやら。だからその時代のことをしゃべらせたら、とても適いませんでした。
 とにかく激動の時代は興味がありますね。それとなぜか不思議なことに、そういう時は「平時」では考えられないような、傑出した人物を多く輩出するようです。時代がそういう人物を育ててしまうのでしょうか。
 戦国時代の女性は大変だったと思いますね。今回の仙桃院や、その娘で景虎に嫁いだ華姫、そして例に上げられた武田勝頼夫人、細川ガラシャ等々。夫である敗軍の将と、従容として運命を共にした女性もけっこういたことでしょう。
 くまさん様は博覧強記、特に戦国時代などはお詳しいことでしょう。どうですか。これといった、あまりこれまで注目されなかった人物をフォーカスして、小説でも書かれてみては?そうすれば、私が最初の読者になります。

投稿: 大場光太郎 | 2009年3月17日 (火) 01時01分

 私にせめて大場様の三分の一もの文才があれば、一度書いてみたいものです!その節は是非巻頭に推奨の辞をお願いします(笑)。
 ところで、先のコメントの補足ですが、大河ドラマは「女性」を主人公にした方が絶対に面白いと思います。というのは、女性の眼から歴史をとらえた方が、より「歴史」と「人間」を理解できるからです。『篤姫』や『三姉妹』があれほど多くの人から愛されたのも、弱い立場(?)にある女性を中心にして人間模様を描いたからこそ、時代や身分を越えて、現代人にも強い共感を誘ったのだと思いますが、いかがでしょうか。

投稿: くまさん | 2009年3月17日 (火) 22時09分

 まず「小説」だけではなく「評伝」でもいいですよね。ちなみに、私も10代の頃から小説はトラウマ、書ける自信はありません。
 「女性が主人公」の大河ドラマ。確かにそのとおりかもしれません。「女性的史観」から歴史を捉え直す試みですね。『三姉妹』が評判だったこと、矢嶋様もそう言っていましたか。調べたら昭和42年とのこと、ずいぶん前のドラマですね。藤村志保、『おくりびと』の山崎努などの出演。原作は大仏次郎。いずれも懐かしい顔ぶれです。
 当時の大河ドラマは、今よりは視聴者に媚びずに作品を作っていたように思います。

投稿: 大場光太郎 | 2009年3月17日 (火) 23時18分

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