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天使の歌声

 つい最近テレビなどで報道されていますから、既にご存知の方も多いかと思います。イギリスのある女性の歌声が世界中で絶賛され、今や「現代のシンデレラ」と大評判を呼んでいるようです。
 まるで天使のような歌声の持ち主は、スーザン・ボイル(Susan Boyle)さん(47歳)。スコットランドの(それまでは)無名の独身女性です。ことの発端は、今月11日に放映されたイギリスのオーディション番組「ブリテンズ・ゴット・タレント(Britains God Talent)」に一人の歌い手としてステージに登場したことから始まります。

 ステージ上のボイルさんは、あか抜けないおよそ晴れ舞台には似つかわしくないような中年女性にしか見えませんでした。そのためステージに立つ(歌う前の)彼女への男性審査員の質問も、おちょくったような辛口なものでした。それに対して少しぎこちないながらも胆が据わった彼女の受け答えに、会場びっしりに埋め尽くされた聴衆が失笑する場面もありました。

 だがしかし。ボイルさんがミュージカル「レ・ミゼラブル」の名曲『夢やぶれて(I Dreamed a Dream)』を歌い出した途端、会場の雰囲気は一変します。審査員たちの顔から冷ややかで皮肉っぽい表情が消え、何かに撃たれたように見る見る驚愕の表情に変わりました。
 それと共に、歌う前は彼女の敵のようだった聴衆たちも、彼女が『夢やぶれて』を歌い進むほどにうっとり聞きほれ、時に狂喜してスタンディング・オベーション状態。誰もがその歌声に魅了されていきました。
 そして歌い終わるや、会場全体から割れんばかりの拍手大喝采。さきほどは辛辣を極めた3人の審査員も、全員がノー文句の「イエス!」「イエス!」「イエス!」。同番組でかつてない高評価を与えました。その中の最年長の男性審査員は、「審査員を3年間つとめて来たが、こんなに驚いたのは初めて。あなたが目標とする歌手として(ミュージカル歌手の)エイリン・ペイジと言った時、皆笑い飛ばした。でももう笑い飛ばす者など誰もいない。言葉にならない。ショックだ」というような絶賛の言葉が与えられました。

 このオーディション番組は、イギリス中で30%以上を誇る高視聴率番組だそうです。ですからそんな番組で歌が歌えて、審査員から最高の評価を与えられ、全国に放映されるだけでも大成功というべきです。
 しかし、彼女の成功はそれのみにとどまりませんでした。そのステージのもようが4月11日に動画投稿サイト・YouTubeで全世界に配信されるや、何と短時日のうちに3,500万回以上も視聴されたというのです。これには外国のメディアも注目し、こうして日本の私たちもボイルさんを知ることが出来たわけです。
 以来彼女の自宅には国内外のメディアが連日押しかけ、さらには既にレコード会社からCD発売などの具体的な契約の話や、テレビなどへの出演依頼も殺到しているそうです。歌った歌は「夢やぶれて」だったのに、まるで「夢が奇跡に」です。

 地元メディアによりますと、ボイルさんは政府助成の公営住宅にペグルスという猫と暮らしていて、定職は持たず普段は教会のボランティアをしているそうです。ここ数年は母親の介護に追われ、その母親が最近死去しました。
 これまで大勢の前で歌を披露したことはなく、教会で歌い続けていただけでした。その母親から生前、「あなたは歌がうまいんだから、挑戦してみなさい」と励まされ、同番組に出ることにしたようです。しかし12歳から歌のレッスンをしていて、彼女自身会場入り直前のインタビューで「大観衆の前で歌いたいとずっと思っていました」「観客の心を掴んでみせます」と答えていましたから、確かな自信があったのでしょう。

 「現代のシンデレラ」とは言いつつも、ボイルさんはお世辞にも美人とは言えない少し太り気味の中年女性です。しかし彼女がひとたび歌い始めるや否や、声量豊かでクリアーな澄んだ歌声で、本当に「天使の歌声」のようです。ボイルさんは、「現代社会は人を見かけで判断しすぎる」と、英紙に話したそうです。
 大女優のデミ・ムーアは、「彼女の歌を聴いて涙がとめどなく流れて仕方なかったわ」と語ったとか。私もテレビで2度、3度と紹介されるに及んで、さすがにくだんのYouTubeをのぞいてみました。いやぁ、凄い ! 本当に聴きほれてしまいました。その歌声を少し聴いただけで、なぜか涙がぼろぼろこぼれてきました。
 「すべての芸術は音楽に憧れる」というような西洋の誰かの言葉があったかと思います。確かに美しい歌声や美しい調べというものは、人の心の奥深くに直接届いて、心の琴線を激しく揺さぶるもののようです。

 私たちは誰しもが、無数の切断面を持つ巨大なダイヤモンドの一つの輝きのようなものです。スーザン・ボイルさんにとって、その輝きとは類い稀れな美声でした。しかし別の人にとっての輝きは、多分それとは違うことでしょう。
 自分だけの輝き(それは「才能」と言い換えてもいい)を既に見つけた人、まだ見つけられず眠ったままの人。さまざまでしょうが、他人とは異なった「ユニークな才能」は必ずあるはずです。その独自の輝きを見出すプロセスこそが、人生という時空の旅の主目的の一つだと思います。
 たとえボイルさんのような、世界的スターダムに一気に駆け上る奇跡的なものでなくとも。願わくば、私たちは独自の才能を開発・発揮して、自分なりに少しでも「世の中の光明化」のお手伝いをしていきたいものです。

 (追記) YouTubeには、スーザン・ボイルさんのステージのもようを、現在3、4バージョンくらい配信しています。今回その中の一つを紹介しようと試みましたが、どうもうまくいきません。「スーザン・ボイル」などで検索して、是非一度その歌声を聴いてみてください。

 (大場光太郎・記) 

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コメント

 スーザン・ボイルさんの世界的人気が止まらないようです。YouTubeアクセス、本文では3,500万件とお伝えしました。しかし最新の結果によりますと、何と1億件を軽く突破したそうです。
 ちなみに、YouTubeのアクセス記録は、2006年に米国のコメディアン、シャドソン・ライブラリーの映像の1億1,800万アクセスだそうです。しかしとどまることを知らない爆発的アクセスですから、今この時点でそんな過去の記録などもうあっさり抜き去り、過去最高になっているかもしれません。

投稿: 大場光太郎 | 2009年4月24日 (金) 02時28分

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