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続・レッドクリフ PartⅡ

 ジョン・ウーは、『M:1-2』『フェイス/オフ』などでハリウッドを制した監督です。そのジョン・ウーが母国の大歴史物語である三国志の映画化のために、構想18年、総制作費100億円を注いで完成させたのが、『レッドクリフ』というビックプロジェクトです。
 またこの映画のためにエキストラとして動員された人民軍兵士1000人以上、騎馬隊のために用意された馬200頭など、あらゆる数字がこれまでのアジア映画の枠組みを越えたスケールだったようです。

 (私ごとながら)私が初めて三国志を読んだのは中学2年の梅雨の頃、吉川英治の『三国志』でした。第1巻の「桃園の巻」を読み始めて止まらなくなり、当時は六興出版社刊の全20余巻だったと思いますが、諸葛孔明の五丈原における死の最終巻まであっと言う間に読了してしまいました。
 その後高校時代は、西洋文学を中心に乱読の日々で別の感動もありました。しかし同じく中学2年の春休みに読んだ『水滸伝』(岩波少年文庫全3巻)とともに、あれほど血湧き肉躍らせながら読みふけったことは後にも先にもありません。
 その後高度経済成長発揚のためか、我が国で「三国志ブーム」が起こり、いろいろな作家がそれぞれの切り口で三国志を描いてきました。残念ながら私は、それらのほとんどを読んでいません。それだけ『吉川三国志』の影響が強かったということだろうと思われます。

 そのあとがきで吉川英治は、「三国志の主役は悠久の時間そのもの。そして具体的人物としては、曹操と諸葛孔明である」というようなことを述べていたかと思います。そのためこの二人は、特に精彩を帯びて描かれていたように記憶しています。
 その中で諸葛亮(孔明)は、27歳で劉備に三顧の礼で迎えられ、隆中の草蘆(そうろ)から出蘆(しゅつろ)する前後から、何やら神仙的で神秘的、超人的な人物として描かれ、それがまた私などにはたまらない魅力に思われました。
 それが今回の映画の金城武の諸葛孔明は、そのようなイメージとはだいぶ違って、現代的な解釈を加えたひょうひょうとした孔明像になっているようです。何年か前ビデオで観た中国電視台制作『三国志』では、唐国強という中国人俳優が演じた諸葛孔明は、どちらかというと吉川三国志のイメージに近く、私は大満足でした。それとのイメージの落差がどのくらいのものなのか、観てみたい気もします。

 吉川英治がもう一人の主役とみなしたのが曹操です。中国にも「判官びいき」があるのかどうか、覇王・曹操は明の時代に成立した『三国志演義』から一貫して悪役、敵役です。「乱世の奸雄」として、天下を手中に収めるためには、時として手段を選ばぬ非情さ冷酷さを見せたことは事実です。しかし反面その子曹植(二男)とともに、後漢末期、三国時代を代表する詩人でもありました。矛盾する極端とも思われる二面性こそが、曹操の魅力であるように思われます。曹操こそは「魅力的な悪役」というべきです。
 
 案の定『レッドクリフ』で曹操は、徹底した「悪」という立場から描かれているようです。そして弱小国呉の周諭と諸葛孔明が強い友情の絆で結ばれ、一致結束して曹操の魏軍という巨悪に立ち向かうという、『演義』以来なかったシチュエーションに変えてまで…。
 ここまでくれば、どうしてもハリウッド映画の典型的な一パターンです。歴史とは、戦争とは、一つの国、一つの陣営が善、片方は悪というような対立図式で断じ切れるような単純なものではないはずです。しかしエンターティメント的映画にあっては、よりドラマチックに展開させ盛り上げるためには、どうしてもそのような際立った図式が必要ということなのでしょうか?

 もう少し曹操を擁護するとすれば―。もし仮に後漢末期曹操という人物が出現しなければ、黄布(こうきん)の乱以降麻のごとくに乱れ、群雄が入り乱れた状況の収拾はかなり遅れ、ために民百姓の苦しみは更に悲惨なものになっていたと思われます。
 また曹操は、早くから帷幕のうちに武官、文官の優秀な人材をどんどん登用し、それら有能の士を存分に働かせて勢力を拡大し、天下の覇権を確実なものにしていきました。その意味で曹操は「将に将たるの器」というべき、大事業を完成させるにふさわしい大人物だったと言えると思います。

 『レッドクリフ』では魏vs蜀という基本的図式に加えて、三国志では傍流の「呉」にスポットライトが当てられています。その代表的人物が呉軍大都督・周諭(しゅうゆ)です。『レッドクリフ』は、周諭を主人公とした映画であるようです。これはなかなか面白い視点だと思います。
 以前にも触れましたが、周諭は美周郎とも称された美丈夫で、弾琴もよくする風流人の一面も持ち合わせていました。あたかも天は、「赤壁の戦い」のためだけに周諭をこの世に遣わしたかのように、赤壁直後の魏との江陵の戦いの際流れ矢を受けたのがもとで、36歳という若さで世を去りました。
 また『レッドクリフ』では、「喬家の二喬(にきょう)」の妹で絶世の美女との誉れ高い周諭の妻・小喬(しょうきょう)に、重要な役どころを与えているようです。『水滸伝』では藩金蓮と西門慶との情事など艶めいた話も出てきますが、『三国志演義』は終始男くさい物語です。そんな中で小喬役のリー・チーリンという美貌の女優がどんなエロスを醸し出しているのか、別の意味で興味深いところです。

 最後に。『レッドクリフ』の主要キャストはけっこう変更があったようです。2007年2月の段階でジョン・ウー監督が発表したキャストは、周諭はチョウ・ユンファ、諸葛孔明役がトニー・レオンだったそうです。直後まずトニー・レオンが体調不良を理由に降板し、代役として金城武の孔明役が決まりました。そうしたら今度は、周諭役のチョウ・ユンファがギャラなど契約面で折り合わず、代わってトニー・レオンが今度は周諭役で再び出演決定したといういきさつだったようです。
 その他当初は、曹操役で渡辺謙や役柄不明で小雪なども候補に挙がっていたとのこと。また中村獅童は当初、呉の実在の将軍・甘寧役だったものの、史実にない出番がふえたため、甘寧をモデルとした甘興という架空の役名に落ち着いたのだそうです。 ― 完 ―

 (大場光太郎・記)

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