喜びのタネをまこう(1)
ご存知の方も多いかと思いますが、「喜びのタネをまこう」という言葉は株式会社ダスキンの企業理念を表わす標語です。私は同社とは何の関係もない人間ながら、この標語は以前から心に深く残っています。そこで今回はこの言葉について、少し考えてみたいと思います。
まずこの言葉を社会に提供してくれている「ダスキン」についてご紹介します。
株式会社ダスキン(本社:大阪府吹田市)は、モップをはじめとするお掃除用品、浄水器・空気清浄機などの生活用品のレンタル、販売や、ミスタードーナツというファーストフード店を展開している会社です。
同社の創業者・鈴木清一は1964年社名を「株式会社ゾーキン」とするつもりでした。しかし「人に言いにくい」「嫁が来なくなる」などの社員の反対により、「ダスト(ほこり)」と「ゾーキン(雑巾)」の合成で「ダスキン」という社名にしたのだそうです。その時鈴木元社長は、「自分が汚れただけ人が綺麗になるのだ。“ぞうきん”で何が悪い」と語ったそうです。
その創業者・鈴木清一は「祈りの経営」を掲げ、そのコーポレイトステートメントに掲げたのが「喜びのタネをまこう」だったのです。
鈴木清一がダスキンを社名にした1964年(昭和39年)は、東京オリンピックが開催された年でもあります。我が国の高度経済成長がいよいよ上昇気流に乗りつつある時期でした。それ以降急激な経済発展を遂げ、世界第二位の経済大国にまでなりました。しかし同時にさまざまな負の遺産もこの国にもたらしました。ただひたすら経済至上主義で突っ走る我が国国民の姿が、諸外国から「エコノミック・アニマル(経済動物)」と顰蹙(ひんしゅく)を買ったこともありました。
そんな中での「祈りの経営」、「“ぞうきん”で何が悪い」と言い切る信念、そして「喜びのタネをまこう」。何やら鈴木清一という人は、高度経済成長期などはるかに飛び越えて、21世紀の今日の企業理念を先取りしていた先見性のある経営者だったように思われます。
ただしこういうタイプの企業は、とにかく業績を拡大し成長するためには手段を選ばず式のアコギな体質ではない分、そんなに急激な伸びは期待出来ないはずです。しかし時間が経つほどじわじわ社会にその良さが浸透していき、着実に成長していける企業だと思います。同社はそのとおりに堅実に成長を続け、2006年(平成18年)には東証一部、大証一部に上場を果たしました。
なお翌年、上場後初の株主総会が大阪の某ホテルで開催されました。開催前に般若心経を唱和したそうです。いかにも同社らしいエピソードです。
ただ長い歳月が経過するとどんな企業も創業時の理念やモラルが風化しがちです。現にダスキンでも、2002年(平成14年)には傘下企業であるミスタードーナツの禁止添加物事件とその隠蔽加担により、当時の社長が辞任するという出来事があったことはまだ記憶に新しいところです。 (以下次回につづく)
(大場光太郎・記)
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