鰯雲(鱗雲)
遠き日の故郷の空ようろこ雲 (拙句)
ここ何日か暖かい日が続いています。きょうも10月下旬にしては、通りを歩いていても思わず日陰を歩きたくなるような強い陽射しで、少し汗ばむくらいの陽気でした。
午後風はやや強いものの、決して寒さをもよおすような風ではなく、肌に当たればむしろ心地よいほどの風です。しかし季節は争えないもので、真っ青で天まで抜けるような青空には、秋の徴(しる)しの一つである、鰯雲(いわしぐも)またの名を鱗雲(うろこぐも)が中空一面を覆っていました。
角川文庫版・俳句歳時記「秋の部」によりますと、
「秋によく見る鰯雲は、巻積雲あるいは高積雲のこと。さざ波にも似た小さな雲片の集まりで、この広がりは小さいことが多いが、一端が地平線まで延びていたり、空に一面に広がっていたりする。魚鱗のように見えることから鱗雲、鯖の背の斑紋(はんもん)のように見えることから鯖雲(さばぐも)などともいう。この雲が出ると鰯が集まるといい、そこからこの名(鰯雲)がついたといわれる」と述べてあります。
うろこ雲、いわし雲と言うと、やはり北の我が故郷の、遠い少年時代の頃の秋空を思い出します。
夕空晴れて秋風吹き
月影落ちて鈴虫鳴く
思へば遠し故郷の空
ああ父母いかにおはす (唱歌『故郷の空』1番)
侘しさを誘う秋という季節もあいまってか、空にこのうろこ雲を見るとなぜか郷愁に駆られるのです。それは、現実的な郷里への望郷の想いというよりも、遠く過ぎ去った故郷での日々への郷愁の方がより強いようです。
空にその雲を仰ぎ見ながらまた、映画『鰯雲』のことが思い出されました。この映画のことは、去年の『夕焼け小焼け』記事で少し触れましたが、厚木市が生んだ農民文学者の和田傅(わだ・でん)の同名の小説を映画化したものです。
制作発表は昭和33年。監督は成瀬巳喜男、脚本は橋本忍。当時の厚木付近の農家の、当主、嫁、姑、息子たちの姿を、ある年の早春から初夏にかけての季節を描いた作品です。
女学校を卒業後、厚木在の農家の嫁になった主役の八重を、淡島千景が演じていました。女優としての華は隠せないもので、農家の嫁にはあるまじき仄かな色香漂う好演が光りました。八重は、厚木通信部に赴任してきた某新聞社の記者・大川(木村功)とふとしたことから知り合い、うたかたの恋に発展するも、大川が東京本社に戻るとともに恋は終わりを告げる。それをメーンテーマに、八重を取り巻く人間模様も随所に描かれていました。
小林珪樹、中村雁治郎、杉村春子、新珠三千代、加東大介など懐かしい往年のスターたちが、しっかり脇を固めたなかなかの名作でした。
この映画は、過去にテレビでも何度か放映されており、私は2回ほど観ました。また当市が舞台の映画ですから、厚木市の出先機関である「郷土資料館」の視聴覚ライブラリーにビデオが置いてあり、3年ほど前借りて観たこともあります。
かれこれ40余年住んでいる私は、厚木市はもう第二の故郷のような感じです。まだ高度経済成長に到る前の昭和30年代前半の、大山の麓の厚木ののどかな農村風景がドラマの展開の合間、合間にふんだんに描かれています。それがこの映画の詩情を一段と高める効果をもたらしており、何となく懐かしささえ感じたものでした。
原作者の和田傅は、農民文学作家として、農民の土地への執着や農村の変化などを描き続けました。
1900年(昭和33年)愛甲郡南毛利村(現厚木市南毛利)の恩名(おんな)の生まれ。旧制厚木中学(現厚木高校)を経て、早稲田大学仏文科入学、1923年(大正12年)同大学卒業。その年初めての作品『山の奥へ』を発表しました。
1937年(昭和12年)『沃土』で第1回新潮文学賞を受賞し、一躍有名になりました。戦後の1954年(昭和29年)日本農民文学会の初代会長となり、翌年神奈川文化賞を受賞しました。1980年(昭和60年)厚木市初の名誉市民となるも、同年10月24日亡くなりました。享年85歳。
代表作は、『沃土』『門と倉』『大日向村』『日本農人傅』『鰯雲』など。
私は、生前の和田傅を一度だけお見かけしたことがあります。昭和45年過ぎ頃のことでした。当時は測量の仕事で当市内を回ることが多く、やはり同業務の折り、恩名地区の路上で偶然出会ったのです。
お宅が近く、散歩の途中ででもあったのでしょうか。和田傅は裏道を悠然と歩いていました。痩せ型の長身で、和服のその姿は「鶴のような」という表現がぴったりのお姿でした。何やらとっくに解脱したような、枯淡で超然とした風貌にお見受けしました。
(大場光太郎・記)
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