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秋の名句(4)

                 原 石鼎

   頂上や殊(こと)に野菊の吹かれ居り

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《私の鑑賞ノート》
 原石鼎(はら・せきてい) 略歴につきましては、『模様のちがふ皿二つ』参照のこと。

 11月7日はもう暦の上では「立冬」です。にもかかわらず当日は、ぽかぽか陽気の晴れて暖かな一日でした。でも俳句を少しでもかじっている者ならば、当日のそんな天気は晩秋晴れの良き日ではなく、小春日和の良き日と感じなければならないのでしょう。
 とはいうものの。現実的な季節感からすれば、湘南の海にほど近く海抜さほど高くない当地などは特に、11月いっぱいは晩秋と捉えたくなります。
 というわけで、当ブログでは今しばらく「秋の名句」を味わっていくことにしたいと思います。

 この句では何が季語かと言いますと、「野菊」です。その他に「菊」「残菊」「残る菊」など皆秋の季語となります。野菊は都会ではまず見られないでしょうが、少し地方に行けば今でも野辺などに群生して咲いているのを見かけます。秋もいよいよ深まった晩秋の季語としてふさわしい花のように思います。
   遠い山から 吹いてくる
   こ寒い風に 揺れながら
   気高く清く 匂(にお)う花
   きれいな野菊 うすむらさきよ  (石森延男:作詞『野菊』1番)

 晩秋のさる日原石鼎は、とある山に登ったのです。といっても登山家が命がけで登攀を試みるような高峰ではありません。どこか登るに手ごろな何100mかの里山、あるいはせいぜい1000m強くらいといった感じの山ではないでしょうか?しかしそんな山ではあっても、その頂上に辿り着いた達成感はまた格別です。
 その達成感、感激が、発句の「頂上や」によく現れていると思います。

 そしていざ頂上に立ってみて、石鼎の目に真っ先に飛び込んできたのが野菊です。そのようすをじっくり見てみるに、「殊に野菊の吹かれ居り」。頂上ですから吹きつける風も一段と強いのです。
 山は標高が100m高くなるごとに、およそ1.6℃気温が下がるといいます。里より何100mか高くなると、もうそれだけでかなり寒く感じます。その上強風ですから、体感では余計寒く感じられたはずです。

 いつも里に咲く野菊を目にすることはあっても、山の頂上に咲く野菊の姿を目にしたのはおそらく初めてなのでしょう。「遠い山から吹いてくる こ寒い風に揺れながら」どころか、吹きつのる強風にか細い身をふるわせながら、普段は遠い山として見上げているただ中でさえ野菊は咲いている。その姿の健気さ、いとおしさ。
 原石鼎にとって、それは新しい発見であり感動であったに違いありません。

 (大場光太郎・記)

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