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かなえの殺人レシピ(4)

 「お母さんは皇族の出身」ー福田定男さん変死事件

 稀代の詐欺師・木嶋佳苗の本領が最も発揮されたのが、2年前の千葉県松戸市の福山定男さん(当時70)変死事件です。この事件は詐欺罪のみならず、佳苗による最初の殺人事件ともなったのでした。
 佳苗は福山さんから、一連の事件でも最高額となる7,400万円もの大金を巻き上げ、なおかつ福山さんを変死に到らせたのです。そしてこれが、後に世間を騒がせることになる知人連続不審死事件の序章となったのです。

 そんな大金をいとも簡単に騙し取られた福山さんは、脇の甘いお人好しの大金持ちだったのでしょうか。いや長年の親友の証言によりますと、「私たちには千円札すら出さない人で、近くのサティには商品が安くなる閉店前に行く」ほどの倹約家、悪く言えば吝嗇家(ケチ)で鳴らした人だったというのです。そんな人がなぜコロッと佳苗に騙されてしまったのか?
 佳苗は最初から『このジイさんかなりお金持ってそうだぞ』とにらんだらしく、相当の気合の入れようで、福田さんに騙(かた)りまくった話は半端ではありません。途中『ここまで言うか !?』と思わず「クックックッ」と笑ってしまうような佳苗の騙しのテクニック、とくとご覧あれ。

 福田定男さんは元々は古紙回収業や古本屋をやっていて、十数年前からリサイクルショップに転じたといいます。主に千葉県を中心に何店舗かを展開させていました。本宅は柏市にあるものの奥さんとは不仲でほとんど帰っておらず、普段は(死亡現場となった)松戸市内のリサイクルショップ本店の2階で生活していました。
 福山さんの30年来の親友によりますと、「ちょっと偏屈で取っつきにくい人。仕事には熱心、事業の展開では先見の明がありました。ギャンブルはしないけど、インターネットで株を売買して相当儲けていました」。数年前店の看板に『結婚相談所 幸せ売ります』と書かれていたこともあり、儲かることなら何でもやっていたようです。実際福山さんは周囲の人に「地元では私が一番金持ちだ」などと豪語していたそうです。

 「結婚相談所」の看板を掲げていた福山さんが、結婚詐欺師・木嶋佳苗と出会ったのはおよそ5年ほど前のことで、きっかけは例の「婚活サイト」。そこには以下の書き込みがされていました。
 <国立音大卒で今はヤマハに勤務していますが、ケンブリッジ大学に音楽留学したいと思っています。資金援助をしてくれる方を探しています。 吉川さくら>
 略歴から名前まで嘘で塗り固められた文面です。なお「吉川さくら」「吉川桜」は木嶋佳苗が20代の頃頻繁に使っていた偽名で、いずれまた取り上げる機会があるかもしれません。

 これを当の福山さんは何の疑問も持たず信じきって、メールを送ったのです。上記親友に、「凄い女と知りあったんだよ。28歳くらい。留学の支援を始めたんだ」と言って、すっかり舞い上がったようすだったといいます。
 佳苗の虚飾の仮面には、さらに幾重もの分厚い化粧が施されていきます。
 <国立音大を主席で卒業したんです><ヤマハの偉い人と一対一で話をして、特別にケンブリッチ留学を認めてもらったんです><おじいさんもケンブリッチを卒業したんですよ>…。
 メールのたびに明かされる“新事実”に驚きと喜びを隠せない福山さんは、そのたび「いやあ。凄いことが分かりましたよ。さくらちゃんのお父さんは東大の教授なんだって」などと、親友に頻繁に電話を入れていたそうです。

 そして‘07年3月頃になると、佳苗は極めつけのエピソードを伝えます。
 「お母さんは皇族の出身で、雅子様からお手紙をもらったこともあるんです。体調を崩して、今は家政婦さんと2人で暮らしています。雅子様はお見舞いにも来てくれました。お父さんは昔、セスナ機の離陸に失敗して死んでしまいました。一緒に乗っていた私も、その時怪我をしました」。

 「よくもここまで騙(かた)ったものよ」ではないでしょうか?ここまでくればもはや、「空軍パイロットでエリザベス女王の親戚」を名乗って女を次々に騙した“クヒオ大佐”も真っ青の、天才詐欺師の面目躍如といったところです。共に騙し取った総額1億円。奇しくも共に北海道出身。ただし大きく違うのは、クヒオ大佐(本名:竹内武男)は金は騙し取っても、人を殺(あや)めることはしなかったことです。それが「誇り高き詐欺師の矜持(きょうじ)」なのです。(なお『クヒオ大佐』は映画化されて、10月10日から全国ロードショー中です。出演:堺雅人、松雪泰子など)

 さて福山さんはというと、「華麗なる一族」への支援にすっかり陶酔気味だったようで、微塵も疑うようすはなかったといいます。ある時は「(彼女への支援額は)もう2千万円くらいかな」とも言っていたそうです。
 親子ほども年の離れた2人でしたが、ホテルに泊まることもあったそうです。「男女の関係もあったかもしれませんが、ただ“彼女は頭がいい”というだけで、容姿のことは一言も話さなかった。正直キレイとは言えないですし、福山さんもそう思っていたのでしょう(笑)」とは親友氏の言です。

 ただ、「少しずつ返します」と約束しておきながら、一向に借金を返そうとしない佳苗を、「老後の面倒を見てもらう」というほど信頼していた福山さんも、次第に怪しいと感じ始めます。親友氏は「亡くなる直前には、“そろそろ金を返してもらわないと。ヤマハの人や弁護士さんとも会って相談する”と言っていました。彼女にも“いつ返してくれるんだ”と言ったんでしょうね」と話しています。
 しかしそれから1ヵ月後。福山さんはリサイクルショップ本店2階の風呂場で、全裸で泡を吹いて死んでいたのです。発見したのは「一日中連絡が取れない」との従業員からの連絡を受けて部屋の鍵を開けた次女でした。

 発見直後救急車が呼ばれたものの、千葉県警は「事件性なし」と判断。当時は佳苗との金銭トラブルが明るみに出ておらず、司法解剖をされることもなく荼毘に付されました。
 今回の福山定男さん、そして次回の寺田隆夫さんについては、証拠が乏しすぎるため立件は絶望視されています。  (以下次回につづく)

 (注記) 本記事は、11月12日号「週刊文春」の“木嶋佳苗特集”の一部を引用しながらまとめました。

 (大場光太郎・記)

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