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映画『ゼロの焦点』

 14日(土)夜凄い映画を観てきました。この日全国一斉公開となったばかりの『ゼロの焦点』です。映画館は、毎度行っている「ワーナー・マイカル・TOHOシネマズ海老名」。松本清張(まつもと・せいちょう)の同名小説の映画化作品です。
 同原作を清張自身は「代表作の一つ」と言っていました。原作は1958年3月から1960年1月まで、月刊『宝石』に連載されたもの。後に光文社の「カッパ・ノベルズ」の一冊として発刊されて大評判となり、これまで映画、テレビで何度も映像化されてきました。
 この度は松本清張生誕100年(1909年12月21日生)記念として、電通、東宝、テレビ朝日、朝日新聞社などの同映画制作委員会の手によって映画化されたものです。

 (あらすじ)板根禎子(後の鵜原禎子)は26歳。昭和32年11月、広告代理店勤務する鵜原憲一と見合い結婚をします。新婚旅行間もない11月末憲一は、「仕事の引継ぎをしてこなければならない」と禎子に言い残し、北陸の金沢へと旅立ちます。しかし予定の12月8日になっても憲一は帰京しません。そのまま何日かが過ぎ、不安に駆られた禎子は、一人金沢に向かいます。金沢で憲一の後任となった本多の協力を得ながら、憲一の行方を追います。その過程で彼女は、夫の隠された過去と生活を知ることになる…。 (フリー百科事典『ウィキペディア』より)

 よく「細部に神が宿る」と言われますが、全編を通してどこにもわざとらしさや破綻が見られず、スリリングなストーリーが小気味よいテンポで展開されていきます。単なる事件物、サスペンス物という枠を超えて、観る者にこの社会が抱えるさまざまな問題を考えさせる、重厚で奥行きのある映画だと思います。
 これは監督の犬童一心、脚本の犬童と中園健司らスタッフ陣の制作技術に負うところが大きいのでしょう。と共に、やはり何よりも「社会派」推理作家と称された松本清張の原作の緻密な世相描写、状況描写のたまものだと思われます。

 ストーリーの本筋とは関係ないながら。昭和30年代前半頃の、東京や金沢の町並み、当時の庶民の暮らしぶり、商業活動などが何の誇張もなくリアルに描かれています。小学校低学年ながら当時を生きた者として、『あヽ確かにこの通りだったよなあ』と、当時にタイムスリップして、画面のその場に身を置いているような臨場感が味わえました。
 それと金沢や能登など、北陸の冬の描写が見事です。テレビでおなじみの金沢市街や兼六園などはさておき。日本海に面した能登の寂れた漁村などの、荒寥(こうりょう)として陰鬱(いんうつ)な冬景色が、時に詩的な映像で迫ってくるのです。北国、雪国で生まれ育った私などは、思わず懐かしさを覚える風景です。

 この映画は、日本アカデミー賞を受賞した3女優が競演していることも大きな話題のようです。広末涼子、中谷美紀、木村多江の3人です。
 ヒロインの鵜原禎子役の広末は、‘08年の『おくりびと』で。室田佐知子役の中谷は、‘03年の『壬生義士伝』と‘06年の『嫌われ松子の生涯』で。田沼久子役の木村は、‘08年の『ぐるりのこと』で。
 広末涼子は日頃テレビ画面で、木村多江は「日本一不幸が似合う女」の称号(?)を得た『白い巨塔』の薄幸な女役で知っていました。しかし中谷美紀は、これまでは名前と顔を何とか知っていただけ。この映画によって、『何と凄い存在感のある女優なんだ ! 』と、すっかり認識を新たにしました。
 鵜原憲一役の西島秀俊、その兄鵜原宗太郎役の杉本哲太、憲一の部下の本多役の野間口徹など男性陣もよく好演しています。特に、一代で成り上がったアクの強いレンガ製造会社社長の室田儀作役の、鹿賀丈史の迫力ある演技には脱帽です。

 ストーリーは、ラストの大破局に向かって息もつかせぬサスペンス的展開を見せていきます。能登金剛という断崖絶壁でのシーンなどは、何やら現代版シェークスピア悲劇を見ているような、荘重で、鬼気迫る迫真のシーンで、必見です。

 原作『ゼロの焦点』で松本清張が訴えたかったのは、経済白書で「もはや戦後は終わった」と述べた昭和30年前半に到っても、「戦争の傷跡」は当時の社会の各層に色濃く影を落としているのだ、ということだったのではないでしょうか?(早速新潮文庫版を求めましたので、今後確認しながら読んでみます。)
 特に、中谷美紀演ずる室田佐知子と木村多江演ずる田沼久子の2人が共演しているシーンでは、戦後まもなく流行した名曲『星の流れに』の、
   こんな女に誰がした
というフレーズが聴こえてくるようでした。その“哀しさ”に思わず涙がこぼれてしまいます。

 さすが、「清張生誕100年記念作品」と銘打っただけのことはあります。私はこの映画は今年の邦画を代表する作品なのでは?と思います。
 ただ一方では、既に公開中の渡辺謙主演の『沈まぬ太陽』こそ年度代表作に相応しい、という評価もあるようです。『さて、どっちなの?』。近いうちそちらも観て、じっくり比べてみよう思います。といっても、『ヴィヨンの妻』結局観そびれたように、確約は出来かねますが。

 (大場光太郎・記)

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