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映画『沈まぬ太陽』

 21日(土)夜またまた見ごたえのある映画を観てきました。『沈まぬ太陽』です。
 山崎豊子の同名原作の映画化作品です。これまで『白い巨塔』『華麗なる一族』『大地の子』など、他の山崎豊子原作は次々に映像化されてきました。しかし『沈まぬ太陽』は原作の内容から映画化は困難と言われてきました。が角川映画によって、今回遂にスクリーン登場となったわけです。

 この映画は「国民航空」という巨大航空会社の、言ってみれば社内史的なフィクションです。しかし実質的に国民航空は、そのまま「日本航空(JAL)」と置き換えがきくようなところがかなりあります。その意味でこの映画は、「日本航空再建問題」が新政権にとっての最重要課題の一つである今、実にタイムリーな映画とも言えそうです。

 角川映画というより角川グループの総帥・門川春樹の「この映画、何としてもメガヒットにしてみせる」という大号令のもと、監督は『ホワイトアウト』の若松節朗、製作総指揮角川歴彦(春樹の弟)、脚本は企業ドラマ『日はまた昇る』の西岡琢也という映画界最高のスタッフで制作に臨みました。
 そしてキャストがまた豪華メンバーで。主人公の不屈の男・恩地元に渡辺謙、恩地とは対照的なエリートコースを歩む元同僚・行天四郎に三浦友和、恩地の同僚で行天の愛人の三井美樹に松雪泰子、恩地の妻りつ子に鈴木京香、母に草笛光子、娘に戸田恵梨香。政府から国民航空という巨大企業の再建を任される国見会長に石坂浩二。その他会社社長や重役陣として、神山繁、横内正、柴俊夫、西村雅彦など。時の総理大臣や閣僚として、加藤剛、小林稔侍など。航空機墜落事故の遺族として、宇津井健、木村多江、鶴田真由など。まさにオールキャストといってよいような豪華キャストです。
 そして上映時間が3時間22分と、途中で休憩が入るほどの長さなのです。

 映画は主演の渡辺謙と現地人による、アフリカでの象狩りのシーンから始まります。何で?という疑問は、物語が進むにつれて明らかになっていきます。そしてタイトルが画面に大きく表示されると、この映画で大きなウェイトを占めることになる、御巣鷹の尾根でのジャンボ機墜落事故がリアルに描かれていきます。いきなり一気に物語は緊迫の場面を迎えます。それは同事故が、この映画全編を通して大きなウェートを占めることになるということを暗に示しているようです。

 同事故は、1985年(昭和60年)8月12日に起きた「日本航空123便墜落事故」のほぼそのままの再現です。事故現場となった御巣鷹の尾根(群馬県多野郡上野村)という地名も、後に同地に建立された慰霊碑も映画の中でそのまま使用されています。
 墜落直前の機内のようす、墜落後の尾根斜面現場のジャンボ機大破の生々しいさま。乗客乗務員524名のうち、死亡者数520名生存者わずかに4名という、我が国航空機事故上最大の悲劇がリアルに再現されています。

 早いもので実際の事故から四半世紀ほど経過していたわけです。当時世間に大変な衝撃を与えた同事故も、最近ではすっかり風化した遠い記憶になっていました。しかし今回これほど生々しく映像化されてみると、同事故の凄まじさを改めて再認識させられました。
 甚だ不謹慎ながら。遺体安置所となった体育館のような広い場所に、500以上もの白い棺(ひつぎ)がずらっと並んでいるさまは壮観です。その一つ一つの棺の中の亡骸(なきがら)には、それまでのそれぞれの人生があったわけです。人生コースの一コマをよりスムーズなものとするため、たまたま事故機に乗り合わせてしまった。そして全く予期せず人生の軌道をそこでバチッと断ち切られてしまった。
 そして今では、棺に覆われているからには最早老若男女という区別すら定かではない。その場は、ただただ「死者の沈黙」だけが深々と領しているだけ。

 「死者は語らず」。ならば残された遺族たちが声を挙げて、怒り、悲しみを訴えるしかありません。「怒り」を、息子夫婦と孫とをいっぺんに亡くした老いた硬骨漢・坂口清一郎が激しく代弁しています。同役を演じた宇津井健はさすが名優です。
 また「悲しみ」は、木村多江が夫を失った鈴木夏子役で熱演しています。「日本一不幸が似合う女」木村の真骨頂の演技もまた見ものです。

 同航空機事故に対する、国民航空の対応はどうだったか?坂口が同社の遺族説明会の席で、遺族を代表する形で激しい怒りをぶつけたように、その後の遺族個々へのお見舞いや補償問題も含めて、不誠実な対応がまま見られたわけです。
 その中で、遺族との交渉役を命じられた渡辺謙演ずる主人公の恩地元だけは、会社からの「一遺族にそんなに時間をかけるな」との命にもかかわらず、心からの誠意をもって丁寧に交渉に当たる…。

 今話題の「日本航空」は映画化について、「ご遺族の中には映画化を快く思っていない方もいらっしゃる。すべてのご遺族の心情をきちんと汲んで欲しい。またフィクションとはいえ、日航や役員・社員を連想させ、日航と個人のイメージを傷つける」などと、映画化反対のコメントを出していました。また同社は角川に対して、「名誉毀損の恐れがある」と警告文を2度送付し、法的な訴えも辞さない構えのようです。
 しかし再建問題で崖っぷちに立たされている今、日航は一映画に対してクレームをつけるほどの余裕が果たしてあるのでしょうか? (以下「続」につづく)

 (大場光太郎・記)

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