« 事業仕分けが終わって | トップページ | かなえの殺人レシピ(13) »

『坂の上の雲』第1回を観て

 NHKが“プロジェクトJAPANスペシャルドラマ”と銘うって、鳴り物入りでスタートした『坂の上の雲』(第1部)第1回目。
 「鳴り物入り」というのも、同ドラマの制作発表は7年も前のこと、撮影期間も既に3年もの長期に及んでいる超大作だからです。そしてロケ地は現在ロシア、中国、イギリスなど海外8ヵ国と国内22都道府県にも及ぶスケールです。それに1話90分当たりの制作費は1億円規模、通常の大河ドラマ1話当たり6千万円を軽く超えています。
 全3部-13話を3年かけて逐次放映していく予定です。ちなみに今年は年末の27日(日)まで<第1部>5回分が放映されます。

 29日(日)夜8時から始まった第1話は、やがては日露戦争へとうねりのように高まっていくこのドラマのプロローグでした。欧米からは「サル」と揶揄されながらも、その欧米列強をおおまじめで見習い、近代国家としてスタートしようとしていた明治新政府。そんな明治期の青春群像のモデルケースとして、伊予松山藩士の3人の子弟たちがこの物語の主人公です。元下級藩士で愛媛県庁のお役人の秋山久敬(伊藤四朗)の長男の秋山好古(阿部寛)と弟の秋山眞之(本木雅弘)。そして少しましな元上士・正岡常尚の長男の正岡子規(香川照之)。

 第1回の「少年の国」は、松山でのまさに少年時代を中心に描かれていました。このドラマは特に秋山真之を中心に進めていくようですが、真之らの破天荒なやんちゃぶりには、我が子供時代も懐かしく思い出され、『オレももっと羽目を外しておけばよかったなあ』と思わせられました。(ただし「少年の国」の本意は、当時の日本は帝国主義の真っ只中の西欧列記という「大人」たちに囲まれた「少年の国」ということのようです。)
 秋山兄弟の父役の伊藤四朗そして母役の竹下景子。なかなか良い味を出していました。それに子規の母(原田美枝子)と妹(菅野美穂)は、後に予期せぬことで共に上京することになります。

 ところで3人の出身県の愛媛県松山市は、同ドラマで大盛り上がりのようです。作品ゆかりの地を巡るツアーが企画され、箱モノ施設「坂の上の雲ミュージアム」は休館返上の大忙し。日銀松山支店は、ドラマ化の経済効果を150億円とはじき出しているそうです。

 この3人、後にいずれも近代日本史に残るような偉業を各人の立場で打ち立てていくことになります。しかし曲がりなりにも「武士」という当時の特権階級の出ではあったものの、どちらかというと下級武士の子せがれたち。そして幕末・明治維新という動乱によってそんな身分保障も吹っ飛んでしまいました。そんな立場の士族の子供たちは、全国的に他にも大勢いたわけです。
 ドラマでは、彼らの暮らしの貧窮ぶりを余すことなく伝えています。彼らだけが予定調和的に「銀のスプーン」をくわえて生まれてきたわけではない。なのになぜ傑出した事業を為すことが出来たのか?伊予松山藩は進取・独立の気風が他藩に勝っていたのだろうか?ドラマの進行と共に探ってみたいところです。

 しかしいくら下級武士の子せがれとはいっても、貧乏町人や百姓の子せがれと決定的に違う点が一つだけあります。彼らには長ずるに及んで「学問」をする機会が与えられていたことです。「学問、知識、情報が“世界”を制す」というもので、後は本人の「向学心の有無」の問題だけで、当時の一般大衆に比してこの差は決定的だったはずです。
 そのとおり、3人とも10代半ば過ぎ次々に故郷松山を後にし東京に上って行きます。好古は大阪師範学校から東京の陸軍士官学校へ。子規と真之は東京帝国大学予備門へ。

 第1回後半は、東京での彼らの生活ぶりに移ります。開化期がやや過ぎた明治20年に少し前の、和洋折衷式の変てこな帝都の姿も垣間見られて興味深いところです。秋山兄弟が下宿しているのは、格式高い旧旗本の佐久間正節家のお屋敷で、後に好古の妻となる深窓の令嬢多美(松たか子)もいます。
 予備校の神田共立学校の英語教師が、何と後の「だるま宰相」高橋是清(西田敏行)で。子規は帝大で後に夏目漱石と無二の親交を結ぶはずで、第2回以降がいよいよ面白くなりそうです。

 なお何でも同じ時間、裏では(逆の立場からすれば『坂の上の雲』こそ裏かもしれない)、「因縁の対決」といわれた内藤大助vs亀田興毅のWBC世界フライ級タイトルマッチが中継されていたようです。今回は派手なパフォーマンスもなく、終始落ち着いた試合運びをした亀田が、12回3-0の判定で、チャンピオンの内藤を破ったとか。亀田にとってはこれでライトフライ級に次いで悲願の2階級制覇を達成したわけで、まずはめでたし、めでたしでしょう。(ただし亀田の真価が問われるのは、次の防衛戦か?)
 同試合があるというのは何となく分かっていました。亀田ファンには大変申し訳ないながら、『あのクソガキが』という思いが強い私はとても見る気がしませんでした。内藤も薬物の噂がちらほらあるし…。しかし世間一般は決してそうではなかったようです。同中継の視聴率が、当節としては驚異的な「43.1%」を記録したとか。『坂の上の雲』などは録画でも再放送でもいつでも観られる、しかしああいう試合はリアルタイムで観てこそのもの。その差だったのでしょう。ここのところ不振にあえぐTBSとしては、「亀田様々」といったところでしょうか。

 最後はとんだ余談になってしまいました。『坂の上の雲』次回が楽しみです。

 (大場光太郎・記)

|

« 事業仕分けが終わって | トップページ | かなえの殺人レシピ(13) »

映画・テレビ」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。