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どん底でこそ笑え

 NHK総合『こころの遺伝子』-西原理恵子編

 先週の『こころの遺伝子』、ゲストは漫画家の西原理恵子(さいばら・りえこ)でした。私はそれまで知りませんでしたが、彼女は『毎日かあさん』というシリーズ物などで今売れっ子の、大人向けギャグ漫画家だそうです。

 番組冒頭で西原理恵子の最近の一日の一こまが紹介されていました。夫に先立たれて、現在は2人の子供を育てながら、漫画の創作に没頭する日々のようです。新聞・雑誌合わせて40本もの連載を抱えているというのですから、彼女がいかに売れっ子漫画家か分かろうというものです。
 そんな西原理恵子ですが、これまでの半生は決して平坦な道のりではありませんでした。この番組にゲスト出演するくらいですから、波乱万丈の大変な苦難の道のりだったのです。
 
 西原理恵子は1964年高知県の漁師町に生まれ、少女時代をそこで過ごしました。最初に一家を悲劇が襲うのは彼女が3歳の時、父親がアルコール依存症で亡くなったことです。彼女流の表現を借りれば「負(ふ)の波」の第一波の襲来です。
 母親はほどなく再婚しますが、義父もまたとんでもない「負」を背負った人で、無類のギャンブル好きだったのです。母親と彼女は襲いかかる負の波から逃げまどう日々。彼女が鮮明に覚えている幼少時の記憶は、一人寂しく膝を抱えて座りながら海を見つめている姿だといいます。義父はある時、首吊り自殺を遂げてしまいます。

 また西原理恵子自身、土佐女子高校時代問題行動(飲酒発覚)を起こし退学処分になりました。(お堅いNHK同番組では、同事件はカット)彼女はそれを不服として、何と学校を相手取って訴訟を起こします。その時取材に来たフリーライターの保坂展人(社民党前衆院議員)と知り合います。
 義父の死の後母親は、「ここにいてはどうにもならないから、これを持って東京に逃げなさい」と理恵子に義父の保険金100万円を渡します。それを受け取り彼女は単身上京します。1983年19歳のことでした。

 東京では各種アルバイトをしながら食いつなぐ日々だったようです。そんな中“大検”に合格、武蔵野美大視覚伝達デザイン学科に入学、卒業しました。そして彼女は、漫画家として自立する道を目指します。が当然のことながら、なかなかまともな仕事にはありつけません。たまに舞い込んでも、成人雑誌のイラストといったものでした。気がついた時には、生活費が底をつき、光熱費も払えないようなどん底生活を送るはめになりました。
 やがて才能を認められ、プロの漫画家としてデビューを果たします。が負の波は連鎖するのか、今度は彼女自身がギャンブル依存症となり、10年間で5000万円もつぎ込むようなすさんだ生活をするようになっていったのです。

 そんな折り西原理恵子は、取材でタイへ行く機会がありました。そこで戦場カメラマンの鴨志田穣(かもしだ・ゆたか)と知り合います。鴨志田という人は発想がめちゃくちゃ面白い男で、当時は頭を丸めてタイ仏教の僧侶になっていました。
 鴨志田は、彼女がギャンブルにのめり込んでいるのを見て言います。「ギャンブルってそんなに面白い?僕が君の知らない世界を見せてあげるよ」。そうして連れて行かれたのがアジアの紛争地帯で、そこは想像を絶する貧困の世界でした。
 そもそも西原理恵子をそこに案内した鴨志田には、「本当のギャンブルは“戦場”だ」という信念があったのです。そこでは皆「命を賭けて」生きているわけですから、まさに究極のギャンブルです。

 そこで西原理恵子が発見したのは、貧困のどん底であえぐ人たちの「底抜けの明るさ」でした。きょうあすの食べ物さえおぼつかない絶対的貧困の中で、子供たちは陽気に笑って遊びまわっているのです。また『この人たちには、良いことなんてちっともなかったんだろうな』と思われるようなお年寄りたちでも、彼女を見かけると何の屈託もない笑顔を返してくれたといいます。
 そんな姿を目の当たりにして、その後の人生を変える大きな気づきを得ます。「どん底でこそ笑え」。これらの人たちに比べれば、自分の半生なんかどうってことなかった。彼女は今まで、自分の生い立ちに負けてしまっていたことに気がついたのです。

 生い立ちがどんな不遇なものだったとしても、何事も笑い飛ばしてしまえば「負の波」は追いかけてこられない。この気づきが、西原理恵子のその後の人生に幾つもの転機をもたらすことになります。
 彼女はまずギャンブルから足を洗いました。そしてこれをきっかけに、彼女の描く漫画の中でも少しずつ笑いが増えていきます。その頃から彼女は、漫画を通して伝えたいことをうまく「笑い」に包んで伝えるよう心がけていったのです。
 また西原理恵子は32歳の時、自分をどん底から救い出してくれた鴨志田穣と結婚します。  (以下「続」に続く)

 (大場光太郎・記)

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