「脱官僚」から「親官僚」へ。菅総理の変節
-総理になった途端“変節”では、肝心の「霞ヶ関改革」などとても期待できない-
菅直人という人は、元々は婦人参政権運動の高名な活動家だった市川房枝女史に共鳴し、市川事務所の選挙事務所代表を務めたのが政治活動のスタートでした。その後江田三郎(参院議長江田五月の父親)の社民連に参加、1980年3度目の挑戦で衆院議員に初当選しました。
菅直人を一躍有名にしたのは、1996年第1次橋本内閣の時厚生大臣に就任し、薬害エイズ問題の解決に奔走したことです。同問題では、官僚たちが秘匿していた関係資料をすべて出させ、国の責任を初めて認め患者と国民に向かって謝罪しました。
出発は革新的な市民活動家、また厚生大臣の時は稀な「官僚と戦う政治家」だったわけです。
ところで菅直人は厚生大臣を辞めた後、『大臣』(岩波新書)という本を出しています。また政権交代なった昨年には、同書の増補版も出しました。その“まえがき”には次のように記されています。
<10ヶ月にわたる厚生大臣の経験で私はこの国が国民主権国家ではなく官僚主権国家であることを、深く認識した。(中略)大臣を経て、単に「自民党から非自民党」に交代しただけではだめで「官僚主導から本来あるべき国民主権へ」という交代が必要だと認識したのだ。>
これはどこにもケチのつけようのない正論と言うべきです。「小沢-鳩山-菅」という従来の民主党トロイカ体制(しかし菅総理は今後は「菅-仙谷-枝野」の新トロイカ体制で行くと宣言)の一人として、昨年発足した民主党政権では「脱官僚主義」を掲げ、その目的達成のため国家戦略局を発足させたのでした。
菅氏は同書でなおも<私がその責任者に就くことで、国民主権の理念に基づいて政治家が責任をもって政策を決めるというメッセージを霞ヶ関に対して発信したのだ>と胸を張って言い切っています。
しかし鳩山前政権で菅(副総理兼)国家戦略相は何をしたのか?もちろん何かはやったのでしょうが、国民には全く見えてこなかったのです。
これについて識者は、「鳩山内閣の失敗の大きな要因は脱官僚の体制づくりに失敗したことです。特に“内閣の司令塔”になるはずだった国家戦略局が機能しないまま数ヶ月を空費したことが致命的でした。これは担当大臣だった菅氏の責任なのです」(元公務員制度改革事務局企画官、現政策研究大学院客員准教授の原英史氏)と、手厳しく指摘しています。
その後菅氏は、藤井裕久氏の辞任を受けて財務相に横滑りしました。途端に菅直人は物分りのいい「財政再建論者」に転じ、「経済オンチ」の汚名を返上すべく、改めて暇をみては財政や経済の“お勉強”をし、「ウチの大臣はよく勉強なさっている」と財務官僚からお褒めの言葉も頂戴したそうです。
ともかく。この「財政再建への転換」は、「官僚主権から本来あるべき国民主権へ」とは真逆な、財務官僚の軍門に下ってしまったと非難されても致し方のない方針転換と言うべきです。
そして8日政権発足後の記者会見で菅総理は、「政と官の関係」について極めつけの発言をしたのです。「官僚の皆さんを排除して、政治家だけでものを考え、決めればいいというものではない。官僚の皆さんこそがプロフェッショナルであり、その知識や経験を生かして、政策を進めていく。政と官のよりよい関係をつくっていけるように努力したい」。
開いた口がふさがらないとはこのことではないでしょうか?
菅発言を勝手に意訳すればー。「霞ヶ関改革」を進めれば、前政権のように官僚群からどんな攻撃をしかられるか分かったもんじゃない。小沢さんのように冤罪をデッチ上げられたら怖いし。官僚の皆さん、ウチの内閣ではそちら様の組織にはあまり手を突っ込みません。だから皆さんも、どうぞお手柔らかに仲良くおつき合いくださいね。ということです。
どおりで官房長官の仙谷由人はじめ、岡田外相、前原国交相、北澤防衛相、長妻厚労相など11人もの、官僚に手なづけられた留任組で固めたわけだ。これでは旧自民党政権と全く一緒でしょ。(いや、「改革」を偽装している分、余計タチが悪いと言えます。)
国地方合わせた公務員給与だけで年間35兆円。実に国家予算の4割以上を占めるのです。それ以外にも、無駄な独立行政法人などを合算すればゆうに50兆円を超えることでしょう。
国債発行額が44兆円という史上最高額の逼迫した国家財政です。徹底した無駄な公務員組織や独法などを廃止し、思い切った人員削減を断行すれば、10兆円や15兆円の「生き金」を見つけることも可能でしょう。真っ先にそれを断行せずに、財務官僚にたきつけられて「初めに“増税”“消費税アップ”ありき」もないものです。
今の菅直人にはかつての革新政治家の輝きはなく、あるのは政権延命のため「保守政治家」に転向した情けない姿なのです。
(注記)本記事は、6月10日付「日刊ゲンダイ」第3面を参考、引用してまとめました。
(大場光太郎・記)
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