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シダリイズ

                ネルヴァル

  想ひびといづくにありや、
  ことごとく奥津城(おくつき)にあり。
  此処(ここ)よりも美(は)しき住まひに
  此処よりも幸(さち)にあふれて。

  青空のはるけき奥所(おくが)、
  御使(みつかひ)の傍(かたへ)にありて、
  聖母(おんはは)に献(ささ)げまつれる
  頌歌(ほめうた)を唱ひつつあり。

  白雪(みゆき)なす、あはれ、フィアンセ。
  咲き匂ふ花のおとめご。
  苦しみにうち凋(しを)れたる
  捨てられし恋の女よ。

  窮みなき生命(いのち)の微笑(えまひ)
  おん身らが眸(ひとみ)にありき。……
  うつし世を消えし炎(ほむら)よ、
  大空にまたも點火(ひとも)れ。

               (齋藤磯雄訳)
…… * …… * …… * …… * …… * ……
《私の鑑賞ノート》
 ジェラール・ド・ネルヴァル(1808年~1855年) 父はナポレオン軍の軍医。パリで生まれたが、2歳で母が亡くなり母方の大叔父の田舎にあずけられた。1814年パリに戻る。リセに進学し、在学中20歳の時『ファウスト』などゲーテの諸作品を翻訳、ゲーテから「もし私がフランス語でファウストを書かなければならないとしたらこう書いたであろう」と激賞された。
 後年見神術や神秘哲学に傾倒し、狂気に陥って『火の娘』その他のすぐれた小説を書いた。象徴派の先駆的な詩人ながら惜しくも自殺して果てた。  (三笠書房・藤原定編『世界青春詩集』などより)

 私の若い頃の愛読詩集『世界青春詩集』収録の一詩です。ロバート・バーンズの『ハイランドのメリイ』と同じく、この詩も死せる女性に捧げるレクイエム(鎮魂歌)となっています。ただこの詩の場合、一聯目に「ことごとく」と複数形であるように、特定の女性だったのか、亡母の面影が投影されているのか、あるいはネルヴァルのイマジネーションの中の女性(たち)だったのか、定かではありません。

 この詩全体に流れるのは、やはり今は亡き「想ひびと」への追慕の情です。がそれと共にこの詩に顕著にみられるのは、キリスト教的「永生」の観念であるようです。想ひびとの肉体は朽ちて「奥津城(墓所)」にありながらも、その魂は、
  此処よりも美しき住まひに
  此処よりも幸にあふれて。

 洋の東西を問わず人間は、死んで終わりなのではない、死を超えた「永遠の生命」を心の深いところで信じ続けてきたと言えます。特にネルヴァルは、略歴にあるとおり西洋神秘思想に傾倒していたようですから、なおさらだったと考えられます。
 ただ惜しむらくはネルヴァルが自死したちょうどその頃(19世紀中頃)から、欧米におけるスピリチュアリズム(心霊主義)の曙光がさし初めたのです。そして今では、(興味ない人には信じられないことでしょうが)「あちらの世界」の実相がかなり解明されてきています。

  御使の傍にありて、/聖母に献げまつれる/頌歌を唱ひつつあり。
 キリスト教で言う「ヘブン(天国)」のような霊妙世界が確かに存在するらしいことが、高度で優れた「霊界通信」によって明らかにされてきているのです。(と言うことは、アストラル界低層部の地獄的な世界も…。)

  白雪なす、あはれ、フィアンセ。/…苦しみにうち凋れたる/棄てられし恋の女よ。
 この第3聯は、シェイクスピアの『ハムレット』中の悲劇の乙女・オフィーリアが連想されます。想いを寄せるハムレットから浴びせられた「尼寺へ行け、尼寺へ」などの悪態。これで気が触れてしまったオフィーリアは、近くの小川に身を投げる…。
 J・E・ミレイの名画『オフィーリアの入水』はあまりにも有名です。

  うつし世を消えし炎よ、/大空にまたも點火れ。
 うつし世(現世)では、肉体と共に消えてしまった「生命の炎」ではあっても、「大空にまたも點火れ」。私たちのハートの奥なる「生命の三重炎(さんじゅうえん)」(ゴールド、ブルー、ビンク)は、肉体の死を超えて、大空(あちら)の世界で永遠に輝き続けるのです。

 (注記)この詩は訳詩者の著作権保護期間ではありますが、どうしてもご紹介したく、このたび取り上げました。ご関係の方がお読みでしたら、どうぞご寛恕ください。
 なお、齋藤磯雄は山形県出身のフランス文学者です。この詩は優れた名訳だと思います。

 (大場光太郎・記)

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