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プロメテウスの刑罰

 -人類の恩人は、人跡未踏の地で永遠とも思われる刑罰を受けた-

 プロメテウスの入知恵により“賢くなりすぎた人間たち”には、『パンドラの匣』で見ましたように、罰として「諸悪の根源」を与えたのでした。そして次にゼウスは、「プロメテウスはどう罰してやったらいいものか?」と思案します。
 「あの野郎、何かオレの弱みを握っているらしい」。ゼウスはそこに一抹の不安があり、プロメテウスの好き勝手し放題を手をこまねいていたのでした。しかし事「天上の火」(『プロメテウスの火』)まで盗まれてしまったとあっては、もう我慢も限界です。

 ついに堪忍袋の緒が切れてゼウスは、断固制裁の手段に出ます。権力の神クラトスと暴力の神ビアに命じて、知恵の神プロメテウスを捕まえさせ、人類未踏のこの世の果てまで連れていかせたのです。
 その地でプロメテウスは磔(はりつけ)にされ、その胸に杭を突き刺され、その杭には一羽の鷲(わし)が止まっています。鷲はプロメテウスの肝臓を啄(ついば)むのです。一日かけて食い荒らすと、次の日にはまたプロメテウスの中に新しい肝臓が育ち、その日もまた鷲に突かれるのです。来る日も来る日もその繰り返しです。
 こうしてプロメテウスは、永遠の責め苦を味わわなければならなくなったのでした。

 磔の刑といえばイエス・キリストが受けたことで有名です。しかし歴史的にはイエスの磔刑(たくけい)が史上最初のものだったわけではなく、この神話に投影されているとおり古代ギリシャ時代既に存在したのです。ギリシャでは、不名誉な罪に対する刑罰として磔刑が行われたようです。
 それが古代ローマにも伝わり、特にローマでは国家の裏切り者に対して、イエス以前にも磔刑は行われていました。
 人類の恩人プロメテウス、そして人類の贖罪主イエス。共に「不名誉な罪」「国家の裏切り者」などの汚名を着せられて磔刑に処せられたことは興味深いところです。

 さてプロメテウスの刑罰は「3万年」と定められていました。しかししばらくして開放されたようです。ゼウスは彼を“肝臓啄まれ地獄”へ送る前、「お前が知っているオレの弱みとは何なのだ?」と尋ねます。ギリシャ神話中の主神でありながら、ゼウスは全能でも聖なる神でもなく、「人間くさい神」「好色な神」なのです。この辺は多神教のギリシャ神話と、「全智、全能、普遍」を標榜する一神教のユダヤ教、キリスト教との大きな違いです。

 ともかく。プロメテウスはその質問に、「さあ、何でしょうかね」とはぐらかし沈黙のうちに地獄へと落とされていったのです。
 しかし随一の知恵者もさすがに地獄の苦行はこたえたらしく、ある時とうとう「大神ゼウスよ。例の重要な情報を教えるから、ここから逃がしてくれ」と懇願しました。「よし分かった。話してみろ」。ゼウスはその取引に応じます。

 “前もって考える人”だから予知できた秘密とはー。
 好色神ゼウスはある時一人の少女を見初めました。その少女の名はテティス。プロメテウスの予言はそれに関わるもので、「もしゼウスがテティスと交われば男児が生まれ、その子は父ゼウス以上の全知全能の神となり、ゼウスを追放するだろう」というものでした。
 それを聞いたゼウスの顔色はみるみる曇ります。というのもゼウスは折りしもテティスという娘と巡り合い、その類い稀な美しさに触手を伸ばそうとしている矢先だったからです。

 実はゼウス自身が、かつて父クロノスを天界から追放し、大神の座に就いた後ろめたい経歴を持っていたのです。「因果は巡る」は、無知な人間ばかりかと言うとさにあらず。今度はゼウスが、我が子に追い落とされる可能性は十分有り得ることだったのです。
 それを考え浮気者のゼウスも、この時ばかりはテティスをあきらめたのでした。
 かくしてゼウスはプロメテウスとの約束を守り、ヘラクレスに命じて肝臓を啄む鷲を射ち殺させ、鎖から解き放ってやりました。
 こうして老いたるプロメテウスはゼウスと和解し、晩年はオリュンポスの神々の良き助言者として平穏に暮らしたと言います。

 (大場光太郎・記)

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