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プロメテウスの火

 -“天上の火”を盗み出したプロメテウスは、人類最大の「文化英雄」である-

 既に 『パンドラの匣』で見ましたように、“神々からのすべての贈り物”であるパンドラは、自身が天界から携えてきた「パンドラの壷」を自ら開けてしまいました。その結果この地上には、病気、悪意、戦争、災害、嫉妬、暴力など、ありとあらゆる悪がはびこることになったのでした。
 壷の中には、ただ一つ「希望」が残されました。

 その後エピメテウスとパンドラは何事もなかったように結婚しました。壷の中からは諸悪の一つとして“仲たがい”や“離婚”も飛び出したはずですが、2人はその影響を受けなかったようです。
 2人はやがて娘のピュラを得ます。ピュラは、プロメテウスの息子デウカリオンと結婚しました。
 夫のデウカリオンは、人類を滅ぼす大洪水のあることを予測し、箱船を造って必需品を積み込み妻のピュラと逃れました。他の人々はすべて死滅する中、2人は生き残り、息子のヘレンはギリシャ人の祖となりました。古代ギリシャ人を“ヘレネー”と総称するのはこの名に由来するのだそうです。

 ここまで来ると何やら連想される物語があります。旧約聖書のノアの方舟(はこぶね)伝説です。近年の聖書研究によれば、旧約冒頭の『創世記』には、先行するシュメール神話が取り込まれているようです。ギリシャ神話もまた同様ですが、厳格な一神教のユダヤ教は意外にも先行文明の影響を強く受けていたのです。
 また「洪水伝説」については、我が国の『古事記』が唯一の例外で、世界各地の神話に共通して見られるようです。レムリア、アトランティスの超太古の滅亡の記憶なのか、それとも有史の7千年くらい前に世界中の大陸を飲み込むような大洪水があったのか、いずれかの人類の記憶に基づくものだろうと考えられています。

 話がだいぶ先に進んでしまいました。元にもどします。
 そもそもゼウスをはじめとしたオリュンポスの神々が、諸悪の根源となるべき女・パンドラを地上に送った本来の目的は、プロメテウスに対してだったのです。
 プロメテウスは「前もって考える人」なのでした。とにかく賢さにかけては比類がなく、大神ゼウスでさえ一目置かなければならないほどの知恵者だったのです。ある時などは憎まれることを承知の上で、ゼウスに“知恵比べ”を挑んだこともあります。実際それによってゼウスの激しい憎しみを買うことになったのですが、それほどプロメテウスは自分の才に自信を持っていたのです。
 それにプロメテウスは、いざという時のために「ゼウスの弱み」も握っていました。

 ゼウスといえばギリシャ神話中第一の主神です。同神話の登場人物たちはたいがいゼウスの前では恐れおののいてひれ伏すのが常でした。しかしプロメテウスだけは違っていました。その意味では大胆な反逆児だったのです。
 その最たるものが、神々の棲家(すみか)から火を盗んで人間たちに与えたことです。ゼウスは「神々の優位性」を保つために、人間どもには火を与えぬ方がよいと考えていたのです。

 しかしプロメテウスは“燈心草”を持って天界に昇り、太陽神アポロンの燃える車に押し付けて火を起こし、それを地上に持ち帰ったのです。以来人間は火を得て、これを用いる方法もプロメテウスは教えたのでした。
 夜は灯りをともすようになり、物を煮炊きして食べるすべを知り、また道具を作るにあたっても火は大いに役に立ちました。
 それだけではありません。プロメテウスは、人間に家を建てること、数を数えること、家畜を飼うこと、船を造ることなども教えたのです。古代の人類の賢さは何もかも、プロメテウスに由来していると言っても過言ではないようです。

 余談ながら。「火の使用」は、人間と動物を分ける革命的な大発見でした。先史時代の直接的な使用に始まって、今日の石油、電気、原子力に至るまで、その根底にあるのは「火」です。その意味で現歴史は一言で「火力文明」と言っていいほどです。
 後々の人類に重要な意味を持つ「天上の火」を盗み出したプロメテウスこそは、人類の大恩人、「文化英雄」と言ってもいい存在です。ただ一言付け加えれば、火は善用することによる恩恵と共に、誤用、悪用すると火傷、火災、原子爆弾など人類に災いを為す、両刃の剣的なものでもあります。「火力」一辺倒の現歴史は、あえて差別用語を用いますが「片輪文明」、時代が進めば進むほど行き詰ることが宿命づけられている文明であるのです。
 火と水のバランス。これが来るべき「新歴史」の鍵となる秘密(火水)なのです。

 それらは既にパンドラ以前に、プロメテウスによって人間世界にもたらされていたのでした。しかしゼウスは人間たちがあまり賢くなることを好まなかったのです。プロメテウスから知恵を授けられ次第に賢くなっていく下界の人間たちを眺め、そこで「ひとつ懲らしめてやれ」と地上に送った“謀略のプレゼント”がパンドラだったというわけです。
 案の定パンドラは思惑どおり壷を開け、諸悪の根源を人間界に撒き散らしてくれました。ゼウスはいよいよ、プロメテウスに途方もない刑罰を課そうとタイミングを見計らっているのでした。

 (追記)今後ギリシャ神話中の物語を、「ギリシャ神話選」という新カテゴリーによって随時ご紹介していこうと思います。それにあたっては今後一々お断りしませんが、主に阿刀田高著『ギリシャ神話を知っていますか』(新潮文庫)を参考にまとめていきます。

 (大場光太郎・記)

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