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ペルセウスのゴルゴン退治(1)

 -我々凡俗は変化を望まず現状に甘んじ、勇者は敢然と困難な冒険の旅に赴く-

 『ペルセウスの誕生秘話』で見ましたように、アルゴスのアクリシオス王は「汝の娘の子によって殺されるであろう」という神託に怯え、美しい愛娘ダナエと、ダナエが産んだ大神ゼウスの子ペルセウスを、木箱に詰め込んで海に流したのでした。
 しかし母子はアルゴスの東の海の小さなセリポス島に流れ着き、奇跡的に島人に助けられ、同島でペルセウスは立派な若者に成長していったのでした。

 ところでセリポス島のポリュデクテス王は、ダナエの美しさを見て、何とか我が物に出来ないかと思い事あるごとに口説き続けました。しかしダナエはなかなか王の意に添おうとはしません。
 そんなある時王の館で祝宴が開かれ、若いペルセウスも招かれてその宴に出席しました。他の客たちは馬などを手土産にして館にやってきます。ところがペルセウスには持っていくべき贈り物がありませんでした。

 「まあ、よい。まだ若いおぬしには、これといった手土産もあるまいて。ケッ、ケッ、ケッ」と、皆に嘲笑され屈辱感でいっぱいのペルセウスは、「では、ゴルゴンの首でもお持ちいたしましょう」と、つい口を滑らせてしまいます。
 「ゴルゴン」は海の果ての魔界に棲む3人の怪女で、その醜悪な面貌は見る者を一瞬にして石に変えてしまうという恐ろしい魔物です。

 かねてからダナエに横恋慕していたポリュデクテス王は、日頃からその息子のペルセウスが邪魔で仕方ありませんでした。そこに絶好の機会到来です。
 『ヤツがいなくなれば、ダナエもオレ様になびくかもしれんぞ』。こう考えた王は、ペルセウスの不用意な発言をすかさずとらえ、
 「ほう。ゴルゴンの首を土産に持ってきてくれるとな。それはおもしろい。早速持ってきてもらおうじゃないか。さあ、早く」、さあ、さあ、さあ、さあ、とけしかけました。

 九分九厘死ななければならない危険な旅と分かっていても、いったん口に出した言葉は実行せねばなりません。それが当時の勇者たちの掟だったのです。
 「あヽ、いいですとも。必ずゴルゴンの首を取ってきましょう」。内心では『しまった。とんでもないことを口走ってしまった』とほぞをかんだかどうか。しかしペルセウスはそんなそぶりはおくびにも出さず、平然とそう言い放って颯爽と旅立って行きました。

 ただこの果敢な美少年には、助力者たちが何人かついていました。何しろ血統的にはゼウス直系の貴種、ギリシャ神話中のサラブレットです。こういう者には神々の庇護がついて回るのです。
 まず知恵の神ヘルメスが、“隠れ帽子”と“飛行靴”を貸してくれました。帽子の方は、これをかぶると周囲を夜が支配し、追手は何も見えなくなってしまうという優れモノです。飛行靴はその名のとおり、これを履くと大空を自由に飛んで行くことが出来るという、現代のテクノロジーを遥かに超えたウルトラシューズです。
 ペルセウスはまた、首を切る鎌もヘルメスから譲り受けました。

 次に女神アテネが道案内を務めてくれ、ニンフのナイアデスが切り取ったゴルゴンの首を入れる丈夫な袋を用意してくれました。
 ここで「女神アテネ」とは、その名が示すとおり古代ギリシャ一の都市国家アテネの守護神で、知恵と戦いの神とされています。
 また「ニンフ」とは、ギリシャ神話の精霊、妖精の一種を意味します。美しい女性しかいないとされています。神々の従者であり、神々や人間と恋をし、交わっては英雄や半神を生み、また多くの逸話の主役ともなっています。「ナイアデス」は固有名詞ではなく、池や泉のニンフを指しています。

 これを読む私たちは、『“神の息子”だからこそ特別な神々の援助が得られたっていう物語だろ。こんな絵空事、ナンセンスだよ』などと思ってはなりません。というのも、私たちもまた「神の息子」であり「神の娘」に他ならないからです。でなければ、「今ここに」こうして生きていることは出来ないはずなのです。
 ゆえにギリシャ神話に限らず「神話」は、私たち自身の時空を超えた「心の可能性」の物語でもあります。そして心の中で実現可能なことは、現実世界でもあるいは実現可能なのかもしれないと、心の片隅てでも思いながら読むといいのではないでしょうか。

 それにペルセウスの場合、神々のサポートを呼び込んだのは、まずもって彼が勇気を示したこと、一度口にした言葉を命がけで実行しようとしたことにあると考えられます。
 「ゴルゴン退治」などという、およそ不可能事に果敢に挑もうとした「敢闘精神」を、神々は大いに愛でたということだと思われます。
 「苦をすれば通ず」「意志あるところ道あり」「至誠天に通ず」。深いところに“神のDNA”を宿す私たちも、虚心坦懐にひとたび何事かに向かってペルセウスばりのチャレンジ精神を発揮するならば、「見えざるサポート」が得られるのは必定だと思うのです。

 …こうして用意万端整えたペルセウスは、ゴルゴン退治の「勇者の旅」に旅立って行ったのです。

 (大場光太郎・記)

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