「社内不倫」社員-懲戒免職にできるか?
-職場という聖域で妖しく燃え上がる情炎。でも危ない火遊びはほどほどに-
今回は、ネット版『PRESIDENT(プレジデントロイター)』の「解決 ! 法律塾」コーナーで見つけた興味深い話題を取り上げます。これは『プレジデント』2011年2月号の「社内不倫している社員を懲戒処分にできるか」記事の転載かダイジェストであるようです。
当今とみに拍車がかかる“性の自由化”のもと、妻子ある男性社員が女子社員と深い男女の仲になるというような「社内不倫」が、どの会社にも一つや二つ転がっているということです。不倫している当事者は“二人だけの秘密”のつもりが、実は周囲は気づいており、苦情が上がるケースもあるといいます。
「不倫」は言わずとしれた配偶者に対する不法行為であり、社会的に批判されても仕方ない行為です。そのような法律的、倫理的な問題はさておくとして、不倫バレバレ同士の周りの社員は仕事がやりづらく、会社としても迷惑千万です。果たして「不倫」を理由に、社員を懲戒解雇できるものなのでしょうか。
労務問題に詳しい横張清威弁護士は次のように解説しています。
「不倫であろうとなかろうと、恋愛は原則的に私生活上の行為であり、会社の業務と直接の関係がありません。不倫によって職場に気まずい空気が漂っていたとしても、それだけで懲戒処分を下すのは無理。企業秩序が乱れ、企業運営に具体的な支障があった場合に限って、不倫は懲戒の理由になるという判例があります(繁機工設事件・旭川地裁、1989年12月27日)」
しかし過去には不倫による懲戒解雇が認められたケースもあります。観光バスの妻子ある運転手がバスガイドの女性と交際して妊娠させた事案では、業務の正常な運営を阻害したとして運転手の解雇を有効としました(長野電鉄事件・長野地裁、70年3月24日)。
それでは一体どの程度の悪影響があれば、懲戒解雇は認められるのでしょうか?その線引きを示すことはけっこう難しいようです。
「懲戒解雇の有効性は、さまざまな要素を総合的に考慮して判断されます。例えば2人とも社員なのか、片方は社外の人なのか。上司と部下の不倫で、情実人事はあったのか。職務に専念すべき勤務時間中にデートをしていなかったか。さらに業種も無関係ではなく、学校や警察など高いモラルが求められる職場で業務に支障が出るかどうかも判断要素の一つになります。懲戒処分の中でも解雇はとくにハードルが高く、こうした要素が積み重なって一定限度を超えた場合でなければ難しい」(横張氏)
たとえ懲戒解雇が困難でも、企業にとって不倫は無視できないリスク要因です。不倫が新たなトラブルを誘発することがあるからです。不倫相手の夫や妻が会社に怒鳴り込んできたり、刃傷沙汰に発展するのはけっして珍しい話ではないようです。またフラれた社員が関係継続を迫ってストーカー化したり、腹いせに不倫相手をセクハラで訴訟提起するケースも十分に考えられます。
このように別のトラブルに発展すれば、企業の社会的信用力は著しく低下します。具体的にトラブルになる前に、会社として対処できることはないのでしょうか。
「まずは口頭注意が妥当です。それでも関係が続くなら、配置転換で片方の社員を異動させてもいい。業務上の必要性があれば、人事異動に本人の合意は原則として必要ありません。トラブルになっていない段階で取れる対策はこの程度ですが、警告の効果は十分にある」(同上)
あとは業務への影響の度合いを見て対処していくことになりますが、前述のように不倫を理由にした懲戒解雇は容易ではありません。
「懲戒にも段階があり、解雇の前に、譴責(始末書)、減給、出勤停止、降格といった処分が可能です。たしかにいきなりの解雇は困難ですが、段階的に処分を科せば解雇も認められやすい。もっとも、解雇は最終的な手段。何かトラブルが生じたときは、軽いレベルの懲戒処分にしたうえで退職を説得することが現実的です。どちらにしても不倫でトラブルを起こせば会社に居づらくなるもの。私の知るかぎりでは、9割以上の人が自分から退職しています」(同上)
当事者は火遊びのつもりでも、問題を起こせば、「プライベートだから」では済まなくなります。会社はもとより、自分や相手の配偶者、家族をも巻き込み、大きく傷つけることにもなります。
「不倫トラブルは別れ際に起こりやすいことを考えれば、最初から大人しくしておいたほうが身のためだ」とは、引用した『プレジデントロイター』記者の結びの言葉です。「社内不倫は密の味」とはいえ、身に覚えのある方はくれぐれもご用心のほど。
(大場光太郎・記)
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