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天皇陛下は今何処に?

   わたしの語ろうとしている都市(東京)は、
   次のような貴重な逆説、
   《いかにもこの都市は中心をもっている。
   だが、その中心は空虚である》という逆説を示してくれる。
   禁域であって、しかも同時にどうでもいい場所、
   緑に蔽われ、お壕によって防禦されていて、
   文字通り誰からも見られることのない皇帝の住む御所、
   そのまわりをこの都市の全体がめぐっている。
     -猪瀬直樹著『ミカドの肖像』冒頭に掲げられた、
        ロラン・バルト「表徴の帝国」中の一文


 天皇陛下並びに皇室ご一家は、今何処におられるのか。
 2ちゃんねるなどネットの一部で話題になっています。いわく、「天皇と皇族は東京を離れて、京都御所に移っている」「いや京都御所に移ったのは皇太子ご夫妻と愛子妃らだけで、天皇は今も皇居にとどまっている」「秋篠宮家は別の御用邸らしい」などなど。

 天皇陛下は16日、東日本大震災に関連して「皆がいたわり合って、この不幸な時期を乗り越えることを衷心より願っています」と、国民に向けてビデオを通じて語られました。天皇陛下がビデオで心境を国民に伝えられるのは初めてのことで、これがさまざまな憶測を呼んでいるようです。
 陛下は既に皇居にはおられず、このビデオメッセージは16日以前に皇居で録画しておいたものではないか、というもの。また今回のおことばの背景となった部屋のようすが、皇居御所とは違うのではないかという声もありました。

 ただ17日の「ネット版スポニチ・社会」記事によりますと、天皇、皇后両陛下は、計画停電に合わせて自主的に御所の節電をされており、被災者、国民と苦難をともにされているということです。
 さらに宮内庁によりますと、両陛下は「計画停電の困難を国民と分かち合いたい」と、お住まいの皇居・御所で連日2時間電力を止めているということです。と共に両陛下は16日、岩手、宮城、福島、茨城、千葉の5県に見舞金も送られたとのことです。

 私もこの情報が事実で、両陛下は今も皇居御所においでなのだろうと考えます。もしそうであるのなら、国民と共にこの苦難を耐え忍ぼうとされているお姿有難く存じます。

 今なお継続中の福島第1原発の危機は、今週特に予断を許さないものがありました。最悪のケースでは、同原発内のいずれかの原子炉が核爆発を起こし、放射能汚染が300キロ圏内にまで及ぶという深刻な事態も懸念されました。
 そうすると、首都東京の中心地である千代田区千代田1番地1号の皇居は、同原発から250キロ未満、とても無傷では済まなかったわけです。そんな中宮内庁長官らは、両陛下に京都御所など安全な場所にお移りいただくよう進言し、それに対して天皇、皇后両陛下がきっぱりと断られたのだと推察します。

 我が国の歴史で、例えば南北朝時代のような戦乱期には、天皇のご遷御は何度かあったように記憶しています。神代の昔より天皇家は皇統連綿、いわゆる「万世一系」で今上陛下まで続いているとされています。近年の研究では、上古、古墳時代に皇統が途切れるか、または別系統と切り替わったことがあるのではないかという説もあります。
 しかし今日でも、私たち国民の多くは天皇家の万世一系説を暗黙のうちに了承し、かつそのことに敬意を表しています。

 そういう意味で皇室は、私たち1億3千余万全国民にとっては「総本家」的なものと言えると思います。もし皇室の皇統が、今ここで途切れてしまう事態になったら。それは普段自覚しなくても、私たち国民は深刻なダメージをこうむるのではないでしょうか。
 ですから私は、今回のように首都東京に非常事態が予測される場合は、両陛下はどうぞ国民に遠慮なさらず、速やかに皇居を離れられることをお奨めするものです。

 ただ天皇陛下が、皇居から別の場所に長期間移られるとなると、首都も日本全体も大変です。冒頭に掲げたロラン・バルト(フランスの批評家-故人)の優れた考察のように、皇居は首都東京の「空虚なる中心」であるからです。
 これは皇居という場所がということではなく、皇居に天皇という類い稀なる存在がいることによって成立していると思われるのです。私たち国民はあまり自覚していなくても、まさに天皇という存在こそが「空虚なる中心」なのです。

 「空虚なる中心」について、ユング研究家の河合隼雄(故人)や神話学者の吉田敦彦などは「中空構造」という別の言葉で表現しています。
 我が国の『古事記』神話では、「中空構造」が繰り返し出てくるというのです。例えば造化三神の天御中主神(あめのみなかぬしのかみ)、高御産巣日神(たかみむすびのかみ)、神御産巣日神(かみみむすびのかみ)のうち、高御産巣日と神御産巣日の両神の活動は、古事記である程度詳しく述べられています。しかし天地剖判(てんちぼうはん-天地創造)の主神とされる天御中主神については、冒頭でしか触れられていないのです。いわゆる「隠り身(かくりみ)の神」なのです。

 これは三貴子の場合もそうです。天照大神、月読命、須佐男命の三神のうち、天照大神と須佐男命の活躍は古事記のハイライトの一つです。ところが真ん中の月読命だけは、伊邪那岐命の「三貴子生み」の個所にしか出てきません。
 後は省略しますが、古事記の中の「中空構造」は他に幾つもあります。
 老子の「無為にして為す」というのか、仏教思想の「空観」というのか。「空虚なる中心」「中空構造」には、どうもそれらに通底する深遠なものがありそうです。

 現日本国憲法下の「象徴天皇制」のお立場にあって、天皇は多くの国民が平常は空気のようにさほど関心を寄せていなくても、この国の「束ね」として途方もない役割を担っておられると思うのです。
 仮に天皇陛下が皇居を去られれば、そこはもう神霊の去った「もぬけ神社」のようなもの。首都と日本は求心力を失い、各分野、各人の向かうべき活動のベクトルはバラバラになり収拾がつかなくなってしまうのではないでしょうか。

 皇位継承者たちを京都などに避難させても、天皇、皇后両陛下は固く皇居を死守されるお覚悟。まことにも有難い大御心です。国民の一人として深く感謝申し上げます。

 (大場光太郎・記)

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コメント

大陽様
はじめましてシッラともうします。ブログの元で、世界のブロガーの声に耳を傾くというグロバルボイスジャパンの編集長です。
http://globalvoicesonline.org/specialcoverage/japan-earthquake-tsunami-2011/
我々は今日本の方の声を通して地震や津波による被害や意見等に関する情報を配信しています。その中で、大陽様のポストも翻訳させていただきたいですが、よろしいでしょうか。もちろん、可能であればオリジナルへのリンクも貼りますし、名前もきちんと出します。
よろしくお願いいたします

投稿: しっら | 2011年3月20日 (日) 18時54分

しっら様
 私のブログをごらんいただき、大変ありがとうございます。
 拙い文章ではありますが、世界の皆様に何かお役立てできるのでしたら、どうぞご自由に翻訳してお使いください。
 「グローバルボイスジャパン」、ますますご発展されますよう、陰(かげ)ながらお祈り申し上げます。

投稿: 時遊人 | 2011年3月20日 (日) 20時11分

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