『春風』
作詞:加藤義清、作曲:フォスター
1
吹けそよそよ吹け、春風よ、
吹け春風吹け、柳の糸に、
吹けそよそよ吹け、春風よ、
吹け春風吹け、我等の凧(たこ)に、
吹けよ吹け、春風よ、
やよ、春風吹け、そよそよ吹けよ。
2
やよ、吹くなよ風、この庭に、
風吹くなよ、風、垣根の梅に、
やよ、吹くなよ風、この庭に、
風吹くなよ、風、我等の羽根に、
吹くな、風、この庭に、
やよ、吹くなよ風、吹くなよ、風よ。
私たちの世代にとって『春風』といえばこの歌です。いえ、この歌しかないといえます。
ご存知の文部省唱歌で、昭和30年代の子供たちは小学校4、5年生の頃学校で教わりました。今でも風薫るこの季節、思わず知らずこの歌を口ずさんでしまいます。
そしてあの頃の郷里の思い出、当時の春のさま、あの時代の空気のようなものまで思い出されてしまうのです。
しかし時代は変わって。今回上の歌詞を確かめるためにネット検索してみたところ、この歌がなかなか出てこないのです。代わってすぐでてきたのは、ゆずの『春風』だったり、奥華子の『春風』だったり、くるりの『春風』だったり。
「ゆず」くらいなら、横浜出身のデュオであることもあり知っています。ただしこのデュオの『春風』は今まで聴いたこともありませんでした。ましてや「奥華子」や「くるり」は、名前すら今回が初めてです。
折角だから、一応はユーチューブで聴いてみました。皆それぞれポップス調のシャレた感じの曲です。子供時代に思春期に青春のただ中にこれらを聴いて、忘れられない「春の思い出」と共に心に残っている人たちもいることでしょう。
しかし私にはどれもピンとこないのです。春風の雰囲気を感じさせてくれるのは、やはり“本家本元”のこの歌でなければねぇ、というのが率直な感想です。
この歌が実にうまく使われていたかつての名画がありました。ご存知の方もおいでかと思いますが、小津安二郎監督の代表作『東京物語』のラスト近くでです。
この映画を簡単に紹介しますとー。広島県尾道市に住む平山周吉(笠知衆)、とみ(東山千栄子)夫婦が、東京で生活している長男(山村聡)、長女(杉村春子)を訪ねていきます。しかし滞在が長引くにつれて厄介者扱いにされ、結局東京で一番親身になって世話してくれたのは、戦死した次男の嫁でいまだ未亡人を通している紀子(原節子)だったのです。
東京での心労がたたったのか、尾道に帰るとすぐとみは脳溢血で亡くなってしまいます。当然長男も長女も大阪にいる三男も葬儀に駆けつけてきます。しかし皆仕事などを理由に、葬儀が済むとさっさと帰ってしまいます。そんな中最後まで残って周吉の身の回りの世話をしてくれたのが、もう他人と言ってもいい紀子なのでした。
そんな紀子を実の姉のように慕っているのが、周吉と同居している京子(香川京子)です。しかし職業婦人(今で言うキャリアウーマン)である紀子は、いつまでも尾道にいるわけにいかずいよいよ帰京する日がきます。
それはうららかな春の日。小学校教員である京子は紀子に別れの挨拶をして、いつもどおり学校に向かいます。京子や子供たちが通っていく尾道の情趣溢れる上り坂の街並み。桜咲く校庭からとらえた山手の小学校の全景。そして学校の廊下が映し出されて…。どこからか
♪吹けそよそよ吹け、春風よ ・・・・・・
とこの歌を歌う児童たちの弾んだ歌声が流れ、京子が受け持つ教室が映し出されるのです。そして『紀子さんが帰るのはちょうど今頃のはずだわ』とばかりに、京子は教室の窓から身を乗り出すようにして海側の線路の方を見渡します。
紀子を乗せているらしい蒸気機関車が上から映し出されて…「終」。
『東京物語』の原節子と香川京子
この歌とも、映画の本筋とも何の関係もありませんがー。
原節子と香川京子の美しかったこと。二人とも美人女優ということももちろんあります。私が驚いたのは、戦後間もない昭和28年(松竹作品)のこの白黒映画の中の、二人の一つ一つの立ち居振る舞いの美しさです。それはさながら「生ける神々」といっていいような、芸術的な所作に思われたのです。
映画上の演技ということはあるとしても、今の若い女性のみならず日本人全体が忘れてしまった、“奥ゆかしさ”が醸し出す気品ある美しさです。なおこの映画では「永遠の処女」原節子が脚光を浴びましたが、私個人としては若き日の香川京子さんの清楚な美しさにしびれました。
こういう日本的な立ち居振る舞いの美を、当時この映画を絶賛した欧米人たちもしっかり観てくれたことでしょう。大震災後の我が国、さて今度はどんな日本美を海外に伝えていけるでしょうか。
唱歌『春風』について述べるつもりが大きく脱線してしまいました。
『春風』(合唱:ダークダックス)
http://www.youtube.com/watch?v=9rqZmPnz2ds
(大場光太郎・記)
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