夢の話(3)
短夜(みじかよ)のアストラル界さ迷えり (拙句)
最近開設間もない頃公開した、『星の荒野にて』『オリオン落下譚』『逃げろ !』の三詩を再公開しました。この三詩はいずれも、40代初めの頃実際に見た夢を下敷きに作った詩です。
三詩のうち『星の荒野にて』は、これだけで一話完結の夢でした。この詩は夢の内容をそのまま忠実に再現したものです。「青白く透きとおった馬」も星座の中に現われた「麗しの乙女」も、まったく夢そのままです。
『オリオン落下譚』も、夢の内容をほぼそのまま詩としたものです。ただ足元に落ちてきたオリオンの「星のカケ」という言葉については少し説明が必要です。
夏目漱石通の方ならば、先刻お見通しのことでしょう。そうなのです。「こんな夢を見た。」で始まる、漱石の名短編『夢十夜』の「第一夜」に出てくる言葉なのです。夢の中でまさに死のうとする女が、
「死んだら埋めてください。大きな真珠貝で穴を掘って。そうして天から落ちて来る星の破片(かけ)を墓標に置いてください。」「百年、私の墓に坐って待っていて下さい。きっと逢いに来ますから。」 男(漱石)は約束どおり百年待っていると…。
私の夢のオリオンから落下した星々も、全く「星の破片(かけ)」といった感じだったので、そのまま拝借した次第です。
なお漱石『夢十夜』は「第十夜」まで、それぞれコクがあり味わい深い夢の話ぞろいです。私が特に好きなのは「第三夜」ですね。
夢主(漱石)は、六つになる子供を背負いながら夜中に小道をとぼとぼ歩いています。子供はいつしか目が潰れて青坊主になっています。その上子供のくせして、対等に口はきくは、父親の自分の考えをすべて見透かしているはで、負ぶっているのが嫌になって、どこかに捨てようとかと思うくらいなのです。田中を抜けて森に差し掛かかり杉の根の処まで来ると、背中の子供がゾッとする事を囁きます…。
後代の精神分析家によりますと、漱石の『夢十夜』の各話はどれも皆、見た夢をそのまま物語として再現したものに間違いないとのことです。
夏目漱石の名文、生の根源に迫るような夢の話、全編に漂うペーソス…。芳醇な時間を堪能したい方にはお奨めの名短編です。
『逃げろ !』は、本来『オリオン落下譚』と一緒に見た夢です。実際はオリオンの星のカケが次々に地面に落ちてきたのに驚いて、びっくり仰天、古城の中を逃げ回りました。そのうち土手の上まで来て、躓いて土手を転げ落ちた、となるのです。
ですから『逃げろ !』のそこまでの部分は、公開当時の創作です。半生の所業悪しき私はこれまで「追われる夢」をずい分見てきました。この詩の前半は、その一バージョンといったところです。
また「根底(ねそこ)の国」に至りそうなほど、長い土手をごろんごろん転がり落ちて、というのも創作です。実際はそんなに長くはありませんでした。
草原と彼方の山並みのようすは、夢そのままの再現です。ただし朝日が昇ったのは、実際の夢では、一つではなく等間隔に「四つ」だったのです。
それにぶっ魂消て(たまげて)目が覚めたのでした。
冒頭申しましたとおり、『星の荒野にて』と『オリオン落下譚』+『逃げろ !』の二つの夢を見たのは、40代初めの頃でした。この二つの夢は、まるで「霊夢」と言っていいような鮮やかな夢でした。これらの夢以外にも、その頃は鮮やかな夢をずい分見ました。
当時私は殊の外「夢」に関心があり、「夢象徴事典」「夢の本」などを何冊か求めて読み耽ったり、横尾忠則気取りで「夢日記」をつけたりしていました。「関心のあるものは現われる」。この法則どおり、私の関心に応えて、夢の方でも毎晩のように面白い内容を繰り広げてくれたもののようです。
今回再公開した詩に見られるように、「空の夢」「星空の夢」をその頃繰り返して見ました。それも『オリオン落下譚』に見られるとおり、初めは散らばっていた星々が、やがて一ヶ所に集まって一塊りの星団のようになるという夢は何度も見ました。時にはそのさまを地上ではなく、遥か上空(宇宙空間?)で見ているという不思議な夢まであったのです。
「夢が現実であり現実が夢なのです」(『バシャール』)。今考えてもなぜだか分かりませんが、私がその頃直面していた現実と何らかの関係があったのかもしれません。
そしてとどのつまりは、オリオンが地上に落下するという夢にまで至ったのでした。奇妙なことにこの夢以降、そのモチーフは現われなくなりました。
今回以前の三詩を再公開する気になったのは、その少し前久しぶりで「空の夢」を見たからです。『おっ、オレの内面がまた活性化しているぞ』と嬉しくもなったのです。
それはまだ星空ではなく、夕闇迫る頃の空のようです。所々に雲が垂れ込めています。その空を背景に、突如空中戦のような事が起こったという夢でした。
時折り雲の陰から戦車のようなものがあちこちに姿を現します。そんなものがどうして空中に浮かんでいるのか奇妙と言えば奇妙です。しかしながら、夢の中では当たり前のことなのです。
それが互いに激しく交戦し合うのです。パッ、パッ、パッと飛び交う火花がはっきり見えました。
どこか広い野原のような所に立って、そのさまをハラハラしながら仰ぎ見ています。私の他に何十人かの人たちが見守っていました。
参考・引用
『星の荒野にて』
http://be-here-now.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/post_8cdd.html
『オリオン落下譚』
http://be-here-now.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/post_7bee.html
『逃げろ !』
http://be-here-now.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/post_d52b_1.html
夏目漱石『夢十夜』-(『青空文庫』)
http://www.aozora.gr.jp/cards/000148/card799.html
(大場光太郎・記)
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