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神奈川県の米軍基地(2)


       神奈川県<県のたより>2010.9月号「神奈川の米軍基地の今」より

「解放軍」から東側陣営に対する「在日米軍」へ

 占領開始当初、日本人の多くがそうであったように神奈川県の人々も、不安と恐れをもって占領軍である米軍を迎え入れた。しかし間もなく、マッカーサーやGHQ主導による「戦後改革」が開始され、神奈川県においても神奈川軍政部に主導された「民主化」が進行する。そして、人々は、左翼陣営の人々も含めて、個々の米兵による不法行為や米兵相手の「原色の街」を問題視しつつも、米軍を「解放軍」とみなし、米軍家族のライフスタイルを豊かさと民主主義の象徴ととらえるようになる。

 だが、マッカーサーが喧伝する「民主主義」は、極めて原理主義的な「アメリカン・デモクラシー」であった。東西対立が激化していくにつれ、日本国民は、この「アメリカン・デモクラシー」の正体を悟らされることになる。同時に、日本国内の米軍も、日本国や日本国民に対峙する「解放軍」「占領軍」としてではなく、東西陣営に対する軍事組織、すなわち文字通りの「米軍」として日本国民に認識されるようになる。
 「在日米軍」は、いわば<自由世界の保安官>としての役割を担うことになり、さらに神奈川県内の米軍基地や施設は、米極東戦略にとって必要不可欠な「軍事施設」として県民の前に立ち現われることになった。安保条約と日米地位協定によって、<保安官>の駐屯地は、占領期同様、治外法権の地となり、米兵の人権は厚く保護された。

 だが多くの神奈川県民の眼には、「在日米軍」は<自由世界の保安官>とは映じなかった。それは、基地公害をまき散らし、都市計画を遅らせ、異国の犯罪者を守り、さらには、東西対立という現実と東南アジアの戦場から血の臭いを運んでくる<招かれざる客>であった。人々は、この<招かれざる客>に対し、反基地運動(闘争)や反米運動(闘争)、平和運動で対抗した。これらの運動や闘争は必ずしも一枚岩ではなかったが、そこには主権国家の国民としての、さらには人間としての自覚とプライドがあった。

 皮肉なことに、この自覚とプライドの重要性を説いたのは、他ならぬマッカーサーに率いられたGHQであり、「占領軍」であった。また、米軍の存在は、結果として戦後の日本や神奈川県の経済復興に一役買うことになり、職を求める多くの人々に基地労働という職を与えた。
 さらに米軍がもたらした文化や生活様式は、戦後の日本に深く根づくこととなった。特に、横浜や湘南地域が、戦後文化、なかでもアメリカニゼーションやアメリカン・ライフスタイルの発信基地と成り得た背景を語ろうとするとき、米軍の存在を無視することはできない。

 人々は、米軍に反発しつつも、米軍がもたらしたさまざまなものを受容したのである。人々は、ジーパンにTシャツ姿でロックを口ずさみ、かつてGHQによって鼓舞された主権者としての自覚とプライドをもって、米軍戦車の前に立ちはだかったのである。

米軍の中で役割が拡大する神奈川の米軍基地

 今日、米軍の基地や施設を、そして米軍を、<招かれざる客>として見る人々はもはや少数かもしれない。基地反対運動も、ベトナム戦争当時の戦車闘争やミッドウェイ寄港反対運動のような全県的な盛り上がりを見ることはできない。米国や米軍側も、この3月に起きた東日本大震災への「トモダチ作戦」など、頼りになる「トモダチ」としてのイメージを強く打ち出そうとしており、事実、そうとらえる人々は神奈川県内において多くなったようだ。
 基地開放日に基地や施設を訪れる人々にとって、そこは巨大なテーマパークであり、居並ぶ軍艦や航空機は、兵器と言うよりも構造美のかたまりである。横須賀のバーでは、若い米兵と日本人青年がごく自然に語り合っている。本土随一の基地県でありながら、神奈川県の米軍の「軍」としてのイメージは、沖縄のそれに比べ、はるかに薄い。

 しかし、米軍の基地や施設は、神奈川県内に確かに存在している。しかも、その場所は、相も変わらず日本の主権や法の外にある。そして、近年の第一軍団司令部のキャンプ座間移転計画に象徴的に示されているように、県内の米軍基地や施設が米軍全体の中で果たす役割は、その数と面積の減少と反比例するかのように拡大しているのである。
 神奈川県は、県内の米軍の基地や施設の存在によって、これまで以上に国際情勢と密接に結びつけられていると言っても過言ではない。米軍が「軍」としての本来の姿を現したとき、その基地や県民に如何なる影響を及ぼすのであろうか。

 近く、ともに神奈川県内の自治体現代史の編纂に携わっている研究者4人と、『米軍基地と神奈川』を有隣堂から上梓することになった。本書では、戦後60年以上に及ぶ米軍と神奈川県の関わりについて、政治、経済、社会、文化等の広い領域にわたって鳥瞰的、かつ簡潔に伝えることを目指した。この試みが伝われば幸いである。    -  完  -

引用
有隣堂社報『有鄰』第515号(平成23年7月10日)2面
(栗田尚弥氏の近刊紹介)
『米軍基地と神奈川』栗田尚弥編著(有隣新書69)予価1050円

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