« カダフィ大佐の死をめぐって | トップページ | 笹目秀和『モンゴル神仙邂逅記』(1) »

ペルセウスのゴルゴン退治(2)

 ヘルメス神から、被れば姿が見えなくなる隠れ兜、履くと大空を自在に飛んでいける飛行靴、それにゴルゴンの首を刈るための鎌のような形をした剣・ハイパーを。ニンフ(妖精)のナイアデスからは、切り取ったゴルゴンの首を入れるキビシスという丈夫な袋が与えられました。
 また女神アテナ(アテネとも)からは、鏡のように磨かれた青銅の盾を授けられました。その上アテナは、道案内までかって出てくれたのです。

 こうして準備万端整い、いざゴルゴン退治へと旅立ちました。とは言うものの、肝心の怪物ゴルゴンの居場所が分かりません。人界から遠く隠棲していて、女神アテナですら知らないのです。
 
 ゴルゴンの居場所を知っているのは、グライアイという名の三人の老妖女姉妹だけです。そこで先ず訪ねることになったグライアイというのが、実に奇っ怪なのです。
 物を見る目は三人で一個だけ、物を食べる歯も三人で一つだけ。互いに貸しあいながら、一度に一人だけが物を見、物を食べるしかないのです。

 私はこの三老妖女から、『マクベス』の三魔女を思い出しました。この魔女たちは劇の始まりから登場し、人徳の誉れ高いダンカン王に仕えていた勇猛な武将・マクベスに「そなたは後に王になるであろう」などと予言します。いつしか本気にし始めたマクベスは、妻の邪悪な唆しにより、自分の領館に泊まることになったダンカン王を…。
 他の重要な場面でも登場しますが、三人の魔女たちの妖しげな予言によって、大破局的悲劇が次々に繰り広げられることになります。
 あるいはシェークスピア(ただし実際の作者は「聖ジャーメイン」)も、ギリシャ神話中のこのグライアイ老姉妹さらにはゴルゴン三姉妹を下敷きに、三魔女を創り上げたのかもしれません。

 ともかく。ペルセウスは隠れ兜をつけて不可視になったところで、この老姉妹たちが目と歯を手渡ししているところをつまみ上げてしまいます。目を奪われたこともあり、グライアイ老姉妹は状況が呑み込めず右往左往しています。
 すかさずペルセウスは、「さあ、ゴルゴン姉妹の居場所を吐け」と脅します。老姉妹たちはなかなか応じようとしません。しかし目と歯を奪われてなおも脅迫まがいに迫られ、遂にゴルゴンの居場所を教えてしまいます。

 こうして居場所を突き止めたペルセウスは、女神アテナの先導で今度こそ本命のゴルゴン退治に向かいます。
 ところで、女神アテナが道案内するには条件がありました。それは「メデゥサの首を献上すること」でした。アテナとゴルゴン姉妹の末女のメデゥサには、過去からの大確執があったのです。

 そもそも髪が蛇になっているゴルゴンは、始祖の神々から端を発するほどの古い怪物です。しかし元々は末女のメデゥサだけは人としての優れた容姿を得ていました。分けてもメデゥサの地中の豊かさを讃えるような黒髪は、海神・ポセイドンの心を強く捉え、二人は恋仲になりました。
 地上の神々の事情に疎いメデゥサはいつしか、「神々トップクラスのポセイドンが惚れるくらいだから、私に勝る黒髪の持ち主はいないんだわ」と思うようになりました。

 この思い上がりが、思いもかけず知恵の神・アテナの怒りを買うことになります。
 「この井の中の蛙(かわず)め。この私を差し置いて自分の髪が美しいと自惚れるとは !」
 激昂したアテナ女神によって,メデゥサの美しい髪は蛇にされてしまいます。メデゥサは泣きながら「こんな姿を恋人には見せられない」と、ポセイドンのもとを去って、地中の姉妹の所に逃げ込んだのでした。

 これはアテナ女神のジェラシーなんじゃないですかねぇ。都市国家・アテネの守護神で知恵の神とは言いつつも、アテナ女神さん、別の物語では類い稀な美青年を他のニ女神と取り合いし、結局それが史上名高いトロイア戦争の遠因になっていますし。
 主神のゼウスさんにしてからが度々言うように、ダナエを奇妙な方法で誘惑し、この物語のヒーローのペルセウスを生ませたなど、浮気、不倫に枚挙にいとまのない好色神なのだし…。シリーズ最初にも述べましたが、とにかく「人間くさい」のがオリュンポスの神々です。

 脱線ついでに、そういえば今思い出しました。昭和40年代の今村昌平監督作品に『神々の深き欲望』という映画がありました。三國連太郎主演でどこかの離島(八重山諸島だそうです)が舞台だったかと思いますが、唯一覚えているシーンがあります。豊満な農婦が、全裸で農家の一室に仰向けで横たわっています。それを天井から撮っているのですが、“ヘアー”が黒々と映っていたのです。(少しぼかし気味だったか?)
 当時はヘアー厳禁の時代ですから、20歳前の私には強烈でした。よく映倫が通したものだと思いますね。

 アテナ女神の怒りはメデゥサの黒髪を蛇に変えてもなお収まらず、その首を所望しているのです。アテナはペルセウスに助言します。
 「狙うならメデゥサですよ。ゴルゴン姉妹の中で彼女だけが不死ではないからです。それと重要なことを云っておきます。ゴルゴンの姿を直接見た者は石になる。だから隠れ兜だけでは十分とはいえない。渡した御鏡の盾を使いなさい。うまく使い、盾の反射を利用して討ち取るのです。立派に使命を果たしなさい」
 そう言って、首を刎ねるための利鎌も手渡しました。

 何せ相手は見る者を石に変えるという怪物です。ペルセウスはおそるおそるゴルゴンの隠れ家に近づいていきます。すると幸いにもゴルゴン姉妹は寝入っていました。
 ペルセウスはアテナ女神に教わったとおり、盾の反射から視界を得て、より一層おそるおそるメデゥサの姿を確認し、抜き足、差し足、忍び足で近づくとすかさずその首を刎ねました。血が飛び散り、首なし死骸から禍々しい血飛沫(ちしぶき)の音がこだましました。
 物音に気づいてゴルゴンの姉たちが飛び起き、妹メデゥサの無残な死骸を見て怒り狂い、犯人を捜し回りました。

 しかしペルセウスは、メデゥサを仕留めるやいなや隠れ兜を被り、さらに飛行靴で逃げ去ったため、ゴルゴンの姉たちの追撃を逃れることが出来たのでした。  (この項終わり)

参考・引用
『建国物語 3.ペルセウスの伝説』
http://lenai.sakura.ne.jp/myth/text/founder/3.html

 (大場光太郎・記)

|

« カダフィ大佐の死をめぐって | トップページ | 笹目秀和『モンゴル神仙邂逅記』(1) »

ギリシャ神話選」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« カダフィ大佐の死をめぐって | トップページ | 笹目秀和『モンゴル神仙邂逅記』(1) »