三浦洸一『落葉しぐれ』
1953年(昭和28年)大ヒットした歌です。歌ったのは三浦洸一。三浦はこの歌で一躍注目を集めました。
私はこの歌を昭和31年頃、おふくろが口ずさんでいるのを聞いていつしか覚えてしまいました。当時私は小学校1年生でしたが、この歌は流行歌を覚えた第一号だったことでしょう。まあその年頃の子供というものは、学校で習う歌よりもこういう歌に敏感に反応し、かつ素早く吸収してしまうものです。
当時は子供ですから意味などまるで分からなかったと思います。しかし近年晩秋から初冬のちょうど今頃になると、決まってこの歌が思い出され、亡母の真似でもないけれど、つい口ずさんでしまうのです。
戦後歌謡曲中の名曲の一つと言っていいでしょうね。三浦の歌をしっかり追うような、ギターの爪弾きの音(ね)が何ともたまりません。
三浦洸一には他に『踊り子』や『東京の人』などのヒット曲もありますが、何といってもこの歌が彼の出世作であり代表曲でしょう。
三浦洸一(みうら・こういち)は、1928年神奈川県三浦市生まれ。本名は桑田利康で、芸名は出身地から取りました。実家は浄土真宗のお寺で、元の勤務先は神奈川県庁。どうりでいかにも実直そうなわけです。
でもこの人の歌唱力は折り紙つき、他の歌手の追随を許さないうまさがあります。
タイトルの『落葉しぐれ』。当時は何の違和感もなく受け入れられたのでしょうが、半世紀以上経った今になってみれば何とも地味な感じがします。以来急速な変貌を遂げたこの社会、まったくの新曲のタイトルとして発売したらあまり売れないかもしれません。
ただ近年(2005年)この歌を氷川きよしがカバーして歌っているようです。もっとも氷川の場合は何を歌ってもヒットしてしまいそうです。
これは余計な事ながら。なおタイトルにこだわりますが、「落葉」も「しぐれ(時雨)」も共に冬の季語です。そこで「落葉しぐれ」は“季重なり”となり、俳句では原則用いてはならない決まりになっています。なぜなら一つ一つの季語には、蓄積されてきた膨大なイメージがその背景にあるため、季語を重ねてしまうと一句が壊れてしまう場合が多いからです。
でもこれは俳句とは何の関係もない流行歌じゃないか。ケチつけるとは何事だ。いえ、決してそんなつもりでは…。吉川静夫先生とこの歌のご関係の方、どうぞ平にご寛恕ください。
この歌の一番から三番までの歌詞、一つ一つが秀逸です。情景がくっきりとイメージされて浮かんで来るのです。
主人公は、渡り鳥のように各地をさすらう流れのギター弾き。季節はあたかも主人公の憂愁な心模様であるかのように時雨がしとしと降っていて、旅の落葉が濡れている。ここから始まる以下の歌詞は、まるで短編小説のような物語性、ドラマ性があります。
名曲の大切な要素だと思います。
(大場光太郎・記)
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コメント
とても魅力的な記事でした。
また遊びに来ます!!
投稿: 志望動機の書き方は | 2013年10月31日 (木) 10時52分