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皆既月食観望記

   冴ゆる夜(よ)のかの月食に見入りけり   (拙句)

 10日夕方市内の顧客を訪問し、そのまま道草してしまいました。夜10時40分頃、帰宅のためのなかなか来ないバス待ちの間、一服しながら月はどこだろうと空を見上げました。夕方東の空に大きな冬満月が昇っていたからです。
 月はほぼ中空にありました。だが何と三日月状ではありませんか。満月の具合が見たかった私は、一瞬『あれれれっ』と面食らってしまいました。しかし三日月にしてはどうもようすが変です。隠れて見えないはずの大部分が、赤銅色に見えているではありませんか。

 でもすぐに事態がのみ込めました。『おっ、月食じゃないか』。半年以上テレビから遠ざかって、日々のニュースにはつい疎くなりがちですが、そういえばネットで確か「近日中に皆既月食が見られる」というようなニュースがあったような。今夜がそうだったわけか。
 なるほどと了解しました。

 道路対面奥にあるアパート一室の薄暗いドアの前で、この寒い中女性のじっと動かない後姿が、さっきから気になっていたのでした。『さては』と思ってくだんの女性のようすを見るに、なるほど今度は横向きになっていて空を見上げたり、時折りケータイをかざしたりしています。あの人も月食見たさに、この寒い中外に出っぱなしだったわけだ。

 今回の月食は、ニュースネタとして広く周知されていたようです。舗道をこっちに来る中年の男性も空を振り仰いで近づいてきました。このバス停は遊歩道の一角にありますが、少し離れた所にあるベンチに腰かけた年配男性が、月食について何かしきりに話しています。
 「月食があるってんで、ずっとここで眺めてんだよ」
 「えっ、そうなんですか」
 話相手は、今しがたバス停横を通り過ぎていった若い男性です。何も知らなかったらしく、ベンチの側に立ち止まり一緒に空を見上げています。

 最終のバスですが、本厚木駅の方からバスはなかなか来ません。待ち客は私一人だけです。普段なら10分も待っていると、イライラじりじりしてしまいます。しかし今夜ばかりは違いました。その間じっくり月食ショーが観察できるのですら。
 
当ブログプロフィールに臆面もなく記しているように、私は「森羅万象探求者」を自称しています。11年ぶりという皆既月食ともなると、とにかく無条件で関心が湧いてくるのです。

 そんな時間経過の中で、なるほど確かに月食は進行していて、三日月部分はより細ってきています。ふと月を照らしている太陽はどこにあるんだろうと気になりました。月の右の部分がまだ残っているということは、その延長線上のずっと先にかなどとあらぬことを考えました。
 しかしよく考えてみると、皆既月食が始まるからには月の真反対側、つまり私が今立っている日本国の真裏のずっと遥か先にあるのだと気づき、自分でもおかしくなりました。

 中空とは言っても、月は天頂に届く手前のわずかに東寄りのようです。すぐ下にオリオン星座が認められ、さらにその下には全天一の輝度をもつシリウスも輝いています。
 今夜の主役の満月の周りにはうっすらと雲があり、時たまそこに隠れたりしています。

 完全に皆既にならない生煮えの11時に近い頃、あいにくバスが来てしまいました。余裕があれば見送ってなお見続けていたいところです。しかし後がないのであれば仕方ありません。
 乗客でバンバンに膨れたような土曜の最終バスに乗り込みました。二つ先のバス停で降りる人がいます。最先端の一人の私は、普段なら器用に身をよじってでも車内にしぶとく残ります。しかしこの時ばかりは、はい降ります降りますとばかりに率先して外に出ました。

 すぐに月食のようすを振り仰ぎました。まだ三日月を留めています。一緒に降りた高校生らしき男子、小さい女の子、その若いお母さん、皆一緒に空を見上げました。バスに戻ってみると、近くで「月食どうなったのかしらね」と話している女の人の声が聞こえました。

 気になりながら、それから四つ先のいつものバス停で降りました。真っ先に中空を見上げると、仔細には分からないものの、もう皆既月食状態のようです。11時10分少し前。光っているところはどこにもなく、ただ鈍い赤銅色の月がぼんやり浮かんでいるだけです。
 バス停から3mほど大きなレンタルDVD店の駐車場に入り、隣地とのフェンス越しの防火用水の表示板の支柱に寄りかかって、なお15分ほど見続けました。おかげで首が痛くなったほどです。

 先ほどより雲が厚くなったのか、皆既のまま月は雲間隠れし、まったく見えなくなることもあります。月食のせいなのか雲のせいなのか、星も二つ、三つ鈍く光っているのみでした。
  み雪は咽(むせ)びぬ 風さえ激しく
  
月も星も 影をひそめ 
  みたまよ何処(いずこ)に 迷いておわすか
  帰れ早く 母の胸に
 そんな歌を口ずさみながら帰宅しました。 

 (大場光太郎・記)

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