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ニュートン世界と量子世界(2)

 -ニュートン世界と量子世界が、私たちの脳内神経組織「シナプス」で出会う-

 通常の大きさの物体はニュートン力学に従います。しかし前回みたように、分子、原子などの超ミクロレベルになると必ずしもニュートン力学に従うことはなくなるのでした。その非ニュートン力学的運動や性質などを探求するのが、量子力学の役割であるわけです。

 目に見えるたいがいの物体は、上から下へと、落差が大きいほどより重力加速度を増して落下します。これはその物体にニュートンの万有引力の法則が働いていることの動かぬ証拠です。なぜそうなるかと言えば、りんごでも石コロでも何でも、これらの物体は重力場を持つに十分な質量(密度、重さ)を有するからです。

 ところが分子以下の超ミクロの世界では様相が一変してしまいます。
 分子でも原子でも電子でも、一定方向への引力が働いていようがいまいが、上にも下にもスピンしたりと自在に飛び回るのです。
 なぜこんな勝手気ままな振舞いが出来るかと言うと、分子以下はあまりにも幽(かす)かな質量であるため、重力場の影響を受けずに運動できるからです。

 ここから分かることは、ある物体(分子や原子も一応物体とみなします)がニュートン力学の影響を受けるか否かの境目となるのは、その物体の「サイズ(大きさ)」にありそうです。
 ある一定サイズ以上だとニュートン力学の影響を受け、それ以下のサイズだとその影響を免れ、量子力学のアプローチに待たなければいけないということです。

 ではニュートン力学と量子力学とを分ける境目となるのはどれくらいのサイズなのでしょうか。
 これはズバリ「20nm」です。
 「nm」とは「ナノメートル」ということで、1nmは1/10億mです。だから20nmは「0.00000002m」ということになります。いずれにしても人間の肉眼で可視できる範疇を遥かに超えた、想像を絶する超ミクロな不可視の領域です。

 今ひとつピンときませんので、不可視の物体を大きいものから順にたどってみましょう。
 アメーバ→1/1万m、赤血球→1/10万m、バクテリア→1/100万m、牛痘ウイルス→1000万mと小さくなり、次に高分子(大きな分子)→1/1億m、(通常サイズの)分子→1/10億m、小さな分子、原子→1/100億mと続きます。
 もうこのレベルともなると通常の顕微鏡では見えず、電子顕微鏡でようやく可視できるレベルです。

 以上ここまで長々と述べてきたのは、他でもない、私たち人間の脳内にニュートン世界と量子世界の出会う場所があるとされるからなのです。
 私たちの脳内の神経細胞間にはごく小さな間隙が隠れています。このような神経細胞間の空間は「シナプス」と呼ばれ、これらの間隙の平均距離がおよそ「20nm」で、ニュートン力学と量子力学との境目のサイズと一致するのです。



 上の図はシナプスの概念図です。シナプスを簡単に説明します。
 脳には千億とも言われる膨大な数の神経細胞が存在し、これらの神経細胞はお互いに情報をやりとりすることで、外界あるいは内臓からの膨大な情報を処理しています。そしてこれらは特定の神経細胞同士が連絡し合い、回路を形成しています。その神経細胞間のつなぎ目の特殊な構造をシナプスというのです。
 例えば目が赤いリンゴを見た場合、網膜の感覚細胞が光や色を感受し、その信号が神経を伝わって脳の奥の方に入っていって「赤いリンゴ」と認識するわけです。

 それまでに幾つもの神経細胞を乗り換えて信号が伝わります。その信号が乗り換えるところを、神経のつなぎ目ということで、ギリシャ語で「繋ぐ」という意味のシナプスと呼ぶのです。(シナプスには、電気シナプスと化学シナプスの2種類があります。)
 つまりシナプスは神経細胞が他の神経細胞や、その効果器官(筋肉、腺細胞)などに情報を伝える場です。今日では、シナプスの数が増加したり減少したり、あるいはシナプスの形態が変化することが、脳の機能すなわち学習、記憶、運動機能に直接的に反映されると考えられています。

 近年電子顕微鏡で見た結果、神経と神経のつなぎ目(シナプス)には、約「20ナノメートル」の間隙があることが分かり、このシナプスこそがニュートン世界と量子世界が出会う場所として関心を集めているわけなのです。  (以下次回につづく)

 (大場光太郎・記)

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