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ラビリントス&クノッソス宮殿

 前回の『伝説のミノス王』では、ミノス王が偽の牡牛を生贄としたことに対して海神ポセイドンが激怒し、牡牛を凶暴にした上、王妃パシパエがその牡牛に強烈な恋心を抱くように仕向けた次第について述べました。
 ここでは、王妃の「牡牛への恋」という、柳田國男の『遠野物語』中の美しい娘が馬に恋をする説話に勝るとも劣らない、世にも奇妙な出来事の顛末について述べていきます。

 牡牛への恋の虜となったパシパエは思いを遂げるため、クレタ島随一というよりギリシャ神話中でも名高い名工ダイダロスに相談します。するとダイダロスは木で牡牛の像を作り、内部を空洞にして表面に牡牛の皮を張りつけました。
 その上像を牧場に運び、パシパエをその中に入れて牡牛と交わらせたのです。その結果パシパエは身ごもり、体は人身ながら牛の顔を持つ怪物ミノタウロスを産み落としました。

 「人間と牛ではそもそも染色体の数が違うのだから、そんなことあるわけがないだろう」と言うのは、人間世界の定理に縛られた思考です。神話世界は「夢の中の世界」と似たところがあります。夢の世界では、現実世界では思いが及ばないような奇想天外な事がまゝ起こるものです。

 さあミノス王はこれを知って激怒するまいことか。王妃にとんでもない入れ知恵をしたダイダロスを捕まえ牢に幽閉しますが、王妃が救い出したと言われています。
 なにせ生まれたミノタウロスは、牛頭人身という怪物の上、ポセイドンが凶暴化した父牛譲りの凶暴さです。この扱いにはさしものミノス王も困り果て、つまりは王もダイダロスを使うしかなくなります。ミノタウロスを閉じ込めるための建造物を造るよう命じたのです。

 こうして造られたのが「ラビリントス」です。ラビリュントス、ラビリンスとも表記されるこの建造物は、世界の歴史でも類を見ない「大迷宮」だったのです。ラビリントスに入ったが最後、複雑に入り組んだ迷路に迷い込み、二度と外に出られないという代物です。つまりは“ラビリントスの主”のミノタウロスに見つけ出され、その餌食になってしまうのです。

 ラビリントス(迷宮)は後世の作家や芸術家たちの想像力を大いに刺激してきました。例えば以前取り上げたマーク・トェインの『トム・ソーヤーの冒険』のラストのハイライトは迷宮のようなマグドゥガル洞窟が舞台になっています。
 この洞窟に迷い込んだトム少年と“婚約者”の少女ベッキーは、数日間絶体絶命で迷宮洞窟からの脱出を試みます。そのようすが、映画『インディ・ジョーンズ(魔宮の伝説)』もかくやと思われる迫真の筆致で描かれています。

 ラビリントスがあったとされるのは、クレタ島北方のクノッソスです。ここが古代ミノア文明の都だったからです。
 ところでクノッソスには、もう一つ「クノッソス宮殿」という名高い建造物があります。この宮殿と思しき遺跡が既に発掘されており、ギリシャ観光におけるクレタ島コースの目玉になっているといいます。

 このクノッソス宮殿も不思議な建造物のようです。今から30年ほど前、それを唱えたのはヴンダリーヒというドイツ人地質学者です。
 ヴンダリーヒは、この建物は宮殿ではなく「霊廟」ではないのかと言うのです。もし宮殿なら王の一族が住まう優雅な建物、しかし霊廟となれば死者の魂を祀(まつ)る建物、性格がまるで異なってきます。
 これは歴史学上認知されているわけではないので仮説ということになりますが、ヴンダリーヒはその根拠として次のようなことを挙げています。

 まず王の住む宮殿なのに、外敵を防ぐ城壁がないこと。また王宮の入り口が凶とされている西の方角にあること。日が昇る東の方角が「誕生と再生」を表すのなら、日が沈む西の方角は「死と黄泉の国」の象徴であるので王宮の入り口としてはおかしいのです。
 また建物内には浴槽らしきものがありますが、小さすぎて人が入れないのです。浴室には排水溝もありません。小さすぎる浴槽は、死者をポッキリ折って収める柩(ひつぎ)だったと仮定するとつじつまが合ってくるわけです。

 一方のラビリントスはまだ見つかっていません。そこで、地下深くに埋もれているという説や、実はクノッソス宮殿こそがラビリントスだったのだという説など諸説あるようです。
 さて次回からは、妖し気な大迷宮を巡ってつむぎ出された「アリアドネの糸」という物語について見ていこうと思います。

 (大場光太郎・記)

参考・引用 本文中、クノッソス宮殿に関する記述は、以下のサイトを参考・引用させていただきました。
サイト『BeneDict「地球歴史館」』-「クノッソス宮殿に死者は住む~クレタ島の謎~」
http://www.benedict.co.jp/Smalltalk/talk-4.htm
関連記事
『クレタ島、エーゲ海、ミノア文明』
http://be-here-now.cocolog-nifty.com/blog/2012/03/post-b77d.html
『伝説のミノス王』
http://be-here-now.cocolog-nifty.com/blog/2012/03/post-08a9.html

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