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アリアドネの糸(2)

 ラビリントスでのアテネ王子テセウスと怪物ミノタウロスとの対決。首尾よくミノタウロスを退治できたとしてもその後大迷宮を無事抜け出すには…。
 今やテセウスへの恋のとりことなった王女アリアドネは、考えに考えれど不安ばかりが込み上げてくるのでした。
 しかしこれぞ天来の啓示か、ふと閃いたのです。
 「そうだ。ダイダロスに聞いてみるのが一番だわ !」
 迷宮の設計者なら、そこからの脱出法を知っているかもしれない。王女は取るものも取りあえず黒衣に身を包み、王宮を後にし、夜陰に紛れてダイダロスの家を訪ねます。

 話を聞いたダイダロスは、ミノタウロスがこの世に生み出される元となった、その昔の王女の母パシパエと牡牛との世にも奇妙な恋を取り持ったことを思い出しました。縁(えにし)は巡って、今度はその娘アリアドネとアテネ王子との恋の成就のため、いい知恵を貸してくれというのです。
 怪物へのこれまで多くの“若人肉”提供の責任の一端はダイダロスにもあります。この際噂に高いアテネ王子がミノタウロスを退治してくれるのなら願ってもないことです。

 そんなこんなで、教えてやりたいのは山々なれど。ラビリントスの設計図は、完成と同時に王女の父君ミノス王の命によって焼き捨ててしまったのです。名工の誉れ高いダイダロスも既に老境、超複雑迷宮の詳細などほとんど覚えてもいません。
 「そういうわけで、わたくしめにもよう思い出せんのです」
 ダイダロスが気の毒そうにそう言っても、アリアドネは簡単には引き下がりません。
 「何とかならないの?」となおも執拗に迫るのです。やはり「必要は発明の母」と言うもの。そこまで言われて、
 「よい考えを思いつきました」と、ダイダロスははたと膝を打ちました。

 「糸玉を持って入るのです」とダイダロスは言うのです。なおも続けて、
 「入る時に糸の端を扉の所に結びつけ、糸玉をほどきながら中へ中へとお進みなさいませ。帰り道はその糸をたぐりながら戻れば、きっと元の所に戻れましょう」

 これを聞いたアリアドネは「これぞ名案 !」と小躍りして喜び、礼を言うのもどかしく王宮に引き返しました。そして直ちにテセウスが閉じ込められている部屋に向かい、
 「もしもし、アテネの王子様。私はこの国の王女のアリアドネです」と告げました。
 こんな夜更けの予期せぬ来訪者をいぶかしく思い、テセウスは無言のままです。アリアドネはかまわず続けます。
 「ラビリントスに入ったら、もう二度と出られぬことはご存知か?」
 核心を衝いた問いかけに思わず身を乗り出したテセウスは、
 「うすうす聞いてはおります」と答えました。

 なお聞いてみると、目の前の王女は「今まで誰一人として無事で生還した者がいない大迷宮の脱出法を教えましょう」と言うのです。『敵国の王女が、まさか奇特なボランティア精神を発揮してでもあるまいし』。テセウスには王女の意図がまったく読めません。
 「なぜ私にそれほどの情けをかけてくださるのか?」
 テセウスの問いかけに、アリアドネは一瞬たじろぎます。しかし既にエロスの矢でハートを射抜かれている王女は、すぐに気を取り直して、
 「あなたが好きになったから」と告白します。

 えっ、えっ?オレを好きになったからだと?もっともこのオレ様は衆に抜きん出た色男ではあるけれど。
 よく見れば、夜も更けて不意に訪れた異国の王女の、乏しい灯火に浮かび上がったほの白い顔はえも言われぬ美しさではないか。たちまち、妖しいエロスの情炎がテセウスにも燃え移ります。
 二人はこうして「心の糸」が結ばれます。そこでアリアドネはダイダロスから伝授された糸玉による脱出法を教えます。そして王女は言うのです。
 「無事脱出できた暁には、私を連れてこの国から逃げてください。あなたを助けた以上、私もこの国に留まることはできませんから」

 「恋は盲目」(は今や差別用語なのだそうですが、これ以外の言葉でどう簡潔に表現せよと言うのだ !?)。ともかくそのような状態の王女アリアドネは、テセウスへの恋のために生国も父王も捨てて悔いのない心境だったのです。
 「あい分かった。きっと怪物を退治して私は迷宮から抜け出してみせる。その時はあなたを連れてこの国を抜け出しましょう」
 「必ずですよ」
 「必ずですとも」
 テセウスは固く誓約し、アリアドネは携えた糸玉をテセウスに渡します。こうして二人は目と目で再会を約し別れたのでした。

 なおこの時アリアドネがテセウスに渡した糸玉 は赤い糸玉だったという説があり、後々の「運命の赤い糸」の謂れとなったという言い伝えもあります。

 (大場光太郎・記)

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『アリアドネの糸(1)』
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