フォレスタの「高原の宿」
-戦前の名曲『湖畔の宿』にならいつつ、それと比肩し得る名曲かもしれない-
(「フォレスタ 高原の宿」YouTube動画)
https://www.youtube.com/watch?v=vOcnouzxzvI
『高原の宿』は前から知っていましたが、さほど関心のある歌ではありませんでした。しかし、たまたまフォレスタコーラスが歌っているのを聴いて、この歌の良さを再認識しました(ので今回取り上げます)。
この歌のように「忘れられていた良い歌を今に蘇えさせること」、それがフォレスタコーラスの存在意義の一つであるように思われます。
「高原旅情歌」というジャンルがあったかどうか。「高原」はイメージ的に独特のロマンチシズムを有しています。このイメージが定着するのには、高原を舞台にした堀辰雄の小説『美しい村』『風立ちぬ』、立原道造の詩『のちのおもひに』などの戦前の文学作品が大きく影響したのかも知れません。
『高原の旅愁』(昭和15年-歌:伊藤久男)『湖畔の宿』(昭和16年-歌:高峰三枝子)など、「高原」は戦前から好んで流行歌の題材になってきました。
しかし「高原旅情歌」が大ブレークしたのは、何といっても戦後すぐの昭和20年代です。終戦による開放感、それと人々が一斉に目を向け始めた欧米のハイカラ文化と、高原のロマンチシズムが結びつくところがあったからなのではないでしょうか。
代表的な歌として、『山小舎の灯』(昭和22年)『高原の駅よさようなら』(昭和26年)『高原列車は行く』(昭和29年-歌:岡本敦郎)などがあります。
この『高原の宿』が発表されたのは昭和30年、何やら高原旅情歌の締めくくりの歌であるようです。というのもこの歌と、翌年同じく高橋掬太郎が作詞した同じような曲想の『山蔭の道』以降「高原旅情歌」はばったり作られなくなったからです。(強いて挙げれば、昭和36年松島あきらが歌ってヒットした『湖愁』くらいなものでしょうか。)
「望郷演歌」もそうですが、徐々に人々の意識が故郷や高原の叙情性から離れて、「街」や「都会」により強い関心が向かい始めたことと無縁ではないように思われます。
『高原の宿』の作詞は高橋掬太郎、作曲は林伊佐緒です。ユニークなことに、歌を作曲した林伊佐緒自らが歌いヒットさせました。林伊佐緒の歌もYouTube動画にはあり、聴いてみましたが声量豊かなテノールでなかなか良い歌唱です。
タイトルの「宿」からしてそうですが、この歌の15年前の名曲『湖畔の宿』をかなり意識しているようです。『湖畔の宿』の3番の歌詞に出てくる「ランプ」が、『高原の宿』のラストでも使われていることからもそれがうかがえます。
歌詞・曲ともに、『湖畔の宿』に勝るとも劣らない名叙情歌だと思います。
【追記】
この歌をフォレスタ混声コーラスが歌ってくれています。男声は今井俊輔さん、横山慎吾さんの2人、女声は吉田静さん、中安千晶さん、白石佐和子さん、矢野聡子さんの4人です。
冒頭の今井俊輔さんの独唱は意外でした。今井さんの独唱自体めったに聴いたことがありませんが、重厚な低音でそれ以降のコーラスにうまくつなげてくれていると思います。
この歌は次世代女声フォレスタの吉田さん、中安さんが前面に出ています。2人は、吉田さんいわく「疑惑の同い年」だそうです(共に推定年齢28歳)。代わって年長の白石さん、矢野さんは後ろからバックアップしている形です。
高原の宿にあって遠い都の「君」を想う切ない心情を、6人の混声フォレスタが情感込めて歌い上げていると思います。
(大場光太郎・記)
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