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叙情歌とは何か(1)

はじめに

 当ブログでは『名曲-所感・所見』『フォレスタコーラス』カテゴリーを設け、昔懐かしい歌謡曲、唱歌、童謡などの名曲を紹介しています。
 それらの名曲を私は一くくりで「叙情歌」と判断しています。それらを取り上げている私は、自分を「人後に落ちない“叙情歌好き”」と勝手にそう考えているのです。

 さてそれではと、人に「叙情歌って何?」と聞かれたとします。きっと答えに窮すると思います。しばらく考えて、「叙情歌とは・・・つまり、そのぅ・・・叙情的な歌ということですよ」。そう答えるのが精一杯でしょう。
 「あゝそうですか」と納得してくれればもうけもの。しかしさらに「私がお聞きしたいのは“叙情的な歌”とは何か?ということなんですけど」と突っ込まれれば、もうお手上げです。つまり日頃「叙情歌通」を自認(?)していながら、肝心の「叙情歌とは何か?」ということについてほとんど何も知らないということを白状せざるを得ないのです。

 「叙情歌の定義」について明快に定義するのは、私のような素人のみならず、歌手や作詞・作曲に長く携わってきた音楽のプロでもけっこう難題であるようです。
 この難問について、ダークダックスのメンバーの一人の喜早哲(きそう・てつ)氏が真正面から取り組んで明快な論を展開しておられます。
 ダークダックスは既にご存知かと思いますが、昭和20年代慶応ボーイによって結成された国民的コーラスグループです。2011年1月高見澤宏氏(パクさん)の急逝、佐々木行氏(マンガさん)の長期療養で、喜早哲氏(ゲタさん)と遠山一氏(ゾウさん)の2人だけになったため以後活動休止中です。

 喜早哲氏が叙情歌論を展開しているのは、今から十数年前に発売された『美しき歌 こころの歌-新叙情歌ベスト選集』(発売:音楽教育センター)というCD集のA4版別冊付録においてです。
 60ページ弱のこの小冊子は『鑑賞アルバム 私の好きなうた』と銘うたれており、「私の好きな歌 愛され続ける歌 叙情歌」として声楽家の鮫島有美子さんとの対談、「わが心のうた」として叙情歌アンケート・ランキング、「私の1曲」、(以前本居長世で取り上げた)「叙情歌作家物語」、「叙情歌に誘われて、45年の旅路~僕たちの叙情歌」というダークダックス4人揃っての座談会など、叙情歌情報満載です。

 そもそも喜早哲氏は、このCD集全体の監修者であるのです。その責任において「叙情歌とは何か」を明らかに定義する必要性があったのでしょう。そこでこの小冊子のメーンとして、「叙情歌とは?」という喜早哲氏の論文が掲載されているのです。
 喜早氏はまず包括的定義として、「(叙情歌とは)世の中の森羅万象を、叙情的に歌い上げたものを指すのです。」としています。これだと先ほどの私の説明より少し専門的定義となりますが、もしこれだけで終わってしまえば大いに物足りません。

 次に喜早氏は、大辞書からの叙情歌の定義を探る試みをしておられます。しかし「叙情」はあっても「叙情歌」は載っていないというのです。ちなみに「叙情」とは、
  「自分の感情を言い表すこと」(大辞林)
  「自分の感情を述べ表すこと」(広辞苑)
 『えっ、こんなのが叙情の定義か?』と落胆してしまうような、杓子定規で「叙情性のかけらもない」記述ではありませんか。

 喜早哲氏はさらに「大百科事典」を当たってみたところ、「抒情詩」は載っていても「叙情歌」は見当たらなかったといいます。同氏は、「結論 ! どの辞書の編集者も、音楽の心がなかったようです。」と結論づけています。
 これはかつて『花泥棒も罪なの?』(2008年7月)で紹介した、「六法全書のどこにも“愛”という言葉はない」というある人の嘆きと共通するものがありそうです。

 「そこで、こうなったら私自身の独断と偏見で、『叙情歌』の定義を作ろうと、使い古した脳細胞を奮いおこして挑戦することにしました。」と述べ、以下6ページにも及ぶ「叙情歌論」を展開しておられるのです。

 当ブログご訪問の方々の関心は千差万別です。フォレスタファンのように根っからの歌好きの方もおられれば、関心はもっぱら政治的な分野、芸能記事や事件記事、スピリチュアルな分野…という方もおられます。しかし私は「本質的に歌が嫌いという人はいない」と考えます。
 それにそもそも当ブログの開設(2008年4月下旬)そのものが、『二木紘三のうた物語』の二木先生のお勧めによるものです。事情により、国民的音楽サイトの感のある同サイトとは疎遠になったものの、今でも二木先生には深く感謝しているのです。

 歌(叙情歌)に関心のある人もそうでない人も。この際わが国の(明治期以降の)古き良き歌を見直し、次の世代につなげていくためにも、喜早哲氏の論を大いに参考に「叙情歌とは何か?」を掘り下げていきたいと考えます。
 途中間を空けての数回シリーズになろうかと思いますが、予めご了承ください。

 (大場光太郎・記)

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