トリックスター考
-「トリックスター」という大変興味深いテーマに、少しだけアプローチを試みる-
直前の『フォレスタの「北帰行」』で、この歌にまつわる私自身の子供時代の思い出をご紹介しました。冒頭述べましたが、その一文は『二木紘三のうた物語』のこの歌にコメントしたものを、後に当ブログに移し替えさせていただいたものです。その際新たに『少年時代のトリックスター』というタイトルをつけたのでした。
少し回りくどい説明になりましたが、今回はこの「トリックスター」について少し考えてみたいと思います。
そもそもあの一文のタイトルをなぜ『少年時代のトリックスター』としたのでしょうか?これには二つの意味を含めたつもりです。
まず一つ目はー。
一文の主人公は、東京から山形県の田舎町(旧・宮内町)の母子寮にやってきて、その夜手品をやってくれた興行師です。つまり文字通り、手品というトリックをやる(子供の私にとっての)スターであったわけです。
その人は東京からやってきた、ダンディな感じの40代くらいの人なのでした。さしたる変化のない私たち寮生活者の日常生活に何の前触れもなく現われ、つかの間鬼面人を驚かせ、その晩のうちにいなくなってしまったのです。
その人は子供の私にとって、民俗学で言うところの「異人(いじん」)であり「稀人(まれびと)」のような存在でした。
♪ 疾風のように現れて
疾風のように去っていく
月光仮面は誰でしょう
これは当時の全国の少年にとってのヒーロー、月光仮面の歌の一節です。当時小学校5年生だった私にとってその人は、まさにトリック(手品)をする「スター」のような存在として強い印象を残したのでした。
それともう一つー。
こちらが本少考のメーンですが、トリックスターは文化人類学上の重要な概念の一つであるのです。くだんの興行師には、こちらの意味でのトリックスター的要素も認められるように思われます。
文化人類学でいう「トリックスター」(trickster)とは、「神話や物語の中で、神や自然界の秩序を破り、または物語を引っかき回すいたずら好きとして描かれる人物のこと」です。(フリー百科事典『ウィキペディア』-「トリックスター」の項より)
たとえばギリシャ神話で言えば、ある時天上界に昇ってこっそり「天上の火」を盗み出したプロメテウスなどはそれに当たることでしょう。さらにはギリシャ神話の主神であるゼウスそのものが大トリックスターであるとも言えます。
なにせゼウス自らが、美しい女を目にとめると歯止めが利かず暴走するのです。白鳥に化けて人妻レダと交わったり、金の雨滴になって塔に幽閉された美女ダナエと交わったり、牡牛に化けて王女エウロパと交わったり…。
「主神自らそんな“掟破り”をしていいのかよ」と言いたくなるほどのご乱行です。
我が国神話中最大のトリックスターはスサノオノミコト(須佐之男命)です。姉神のアマテラスオオミカミ(天照大神)の制止も聞かず、高天原に昇ってきて乱暴狼藉の限りを尽くします。アマテラスは怒り、天の岩戸に籠ってしまいます。
「ここに高天の原皆暗く、葦原中国(あしはらのなかつくに)悉(こと)に闇(くら)し。これによりて常夜(とこよ)往(ゆ)きき。ここに萬(よろず)の神の声は、さ蝿なす満ち、萬の妖(わざわい)悉に発(おこ)りき。」(岩波文庫版『古事記』より)
キリスト教における最大のトリックスターは、何と言っても堕天使「ルシファー」でしょう。と言うより、欧米主導の今日の世界にあってルシファーは、「悪魔」「サタン」「666の獣」など禍々しい負のイメージで捉えられことが多いかもしれません。
以前は私もそういう捉え方でした。これは別のところで論ずべきテーマですが、今ではまた違う捉え方をしています。ユダヤ教の旧約聖書におけるルシファーは堕天使ではあっても、悪魔・サタンとはみなされていませんでした。そういう性格を賦与したのはキリスト教会なのです。
そう言えば、乱暴者のスサノオも我が国神話中の悪神です。いずれ述べる機会があるかもしれませんが、高天原を追放された須佐之男命と、天界から堕とされたルシファーには共通性があるのです。 (以下「続」に続く)
(大場光太郎・記)
参考
『月光仮面 主題歌』(YouTube動画)
http://www.youtube.com/watch?v=oHpN4QuGc-U
関連記事
『フォレスタの「北帰行」』
http://be-here-now.cocolog-nifty.com/blog/2012/08/post-3955.html
『プロメテウスの火』
http://be-here-now.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-df01.html
『ゼウスはなぜ好色なのか』
http://be-here-now.cocolog-nifty.com/blog/2012/06/post-fc1b.html
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