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叙情歌とは何か(5)

「叙情歌」まとめ

 これまで見てきたことを踏まえて、以下に「叙情歌は何か」についてのまとめをしてみます。

 * 「叙情歌」は「抒情詩」にメロディをつけたものである。
 * 「抒情詩」に歌いこまれる題材は、バラード、エレジー、ソネット、パストラル、賛歌など、どの範疇に属するものでもかまわない。
 * 表現はあくまで優雅で品位の高い詞が要求される。たとえ、それが恋の苦しみ、恨みつらみを歌った歌であったとしても、「骨まで愛して」というような直接表現は許されない。
 * 「叙情歌」は、以上の諸条件を満たした抒情詩に、美しく優雅でかつ上品なメロディがつけられた歌の総称である。
 * 「叙情歌」の場合は、詩を読む場合と違って、瞬間に歌詞が通過してしまうので、できるだけ平易で分かりやすく、歌詞の意味も理解しやすいものが理想である。
 * メロディは哀愁の中にも明るさ、明朗な中にも淋しさが感じられるような、深みのある作品がいい。
 * 「叙情歌」だから遅いテンポの曲がいいとも限らない。冗長で貧弱なメロディの歌ほど、どうしようもないものはない。美しいメロディとテンポの遅さはまったく別のことである。

 以上は、喜早哲(きそう・てつ)氏の「叙情歌・まとめ」をほぼそのまま引用させていただいたものです。

 ところで、喜早哲氏が監修した『美しき歌 こころの歌-新・叙情歌ベスト選集』では、同CDコレクション製作にあたり、1万人の人たちからアンケートを取り、その集計を基に選曲したのだそうです。
 その結果、喜早氏が予想していた曲目はほとんど上位に並んでいたそうです。そこから同氏は、「これは、多くの方が美しいと感じることができる素晴らしい感性をおもちであることに他ならない」と述べています。

 これは同コレクション選曲の場合だけではなく、またいずれ取り上げてみようと考えていますが、2006年(平成18年)に制定された『日本の歌百選』(主催:文化庁、日本PТA全国協議会)の中の歌を見てもそう感じます。
 これも一般から応募した曲の中から選定したものですが、私が『あの歌は入っているだろうな』と思った歌はやはりほとんど入っていました。(ただ「百選」限定のため、選に漏れた“名曲”もあります。)
 
 我が国で近代音楽教育が始まって百有余年。唱歌、童謡、歌謡曲などジャンルを問わず、数多くの名曲、叙情歌が生まれ、愛唱されてきました。幾多の優れた作詞家、優れた作曲家たちがいてくれた賜物です。
 そのおかげで、私たちは数多くの名曲に触れる機会に恵まれ、優れた歌に対して「耳が肥えている」国民になれたのだ、といえると思います。

 今私たちが聴くことのできる名叙情歌群は、立派な「文化遺産」です。これを失うことなく、絶やすことなく、のちの世代に継承していくことができるのでしょうか。
 『名曲-所感、所見』の歌の中で何度か述べたことですが、昔の優れた童謡などでも「悲しい歌だから」「暗い歌だから」「時代がそぐわないから」などという理由で、学校で教えなくなって久しいようです。

 その成果なのか。同コレクションの別冊『鑑賞アルバム 私の好きなうた』の喜早氏との対談の中で、声楽家の鮫島有美子氏は、「今の若い人たちにとって叙情歌は“重い”と感じるかもしれない」と述べています。これは今の話ではなく、15年も前の発言です。

 でも今日、若い「フォレスタコーラス」が「重い」はずの数々の叙情歌を歌ってくれています。また「坂入姉妹」さん(東京音楽大学卒業)は、童謡を専門として歌ってくれています。「時代遅れ」の私には、こういう試みが嬉しくもあり、ありがたくも感じられるのです。
 彼ら、彼女らの歌声を日々視聴している私たちも、叙情歌という文化遺産を後世に引き継ぐために、身近なところからでも、何かできることをしていこうではありませんか。  -  完  -

【注記】
 本シリーズは、最初にお断りしたとおり、喜早哲氏の「叙情歌とは?」と題した「叙情歌論」のエッセンスを丸写し的に要約したにすぎません。喜早哲氏及びご関係の皆様方に深く感謝申し上げます。
 喜早氏の一文は、今回取り上げることができませんでしたが、「日本の叙情歌の歴史」へとなお続きます。また機会があればご紹介したいと思います。

『新・叙情歌ベスト選集』(10枚組CD集 200曲以上の名曲を収録)
日本音楽教育センター
 〒169-0073 東京都新宿区百人町2-1-11
 TEL 03-3205-2400(代)
喜早哲『叙情歌とは?』 同選集別冊『鑑賞アルバム 私の好きなうた』より  

 (大場光太郎・記)

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