« 街灯は何のためにある? | トップページ | 「就職偏差値」が異様に高い2つの地方大学 »

バーンズ『アフトン川の流れ』

-私にとっての大発見 ! 『アフトン川』は「ハイランドのメリー」を讃える歌だった -

   アフトンの流れ (Flow Gently Sweet Afton)

                    ロバート・バーンズ

  静かに流れよ、佳(よ)きアフトンよ、お前の緑なす丘の間を、
  静かに流れよ、私はお前にお前を讃(ほ)めて歌を歌はう。
  私のメーリイは眠ってゐる、お前の呟く流(ながれ)の辺りで。
  静かに流れよ、佳きアフトンよ、彼女の夢を妨(さまた)ぐな。

  其(そ)の反響の谷中(たにじゅう)に響き渡る河原鳩よ、
  彼処(かしこ)なる山櫨(さんざし)の峡谷(たに)に囀(さえず)る
    野の声高き鶫(つぐみ)よ、
  又緑の冠毛(かざり)戴くなべげりよ、お前の叫び声を慎め、
  私は私の眠れる乙女を覚(さま)す勿(なか)れと堅く命ずるのだ。

  何と高い哉(かな)、佳きアフトンよ、お前の隣(とな)れる山々は、
  峰近くまで奇麗な紆(うね)れる小川の川筋に跡付けられ、
  其処(そこ)に日々私は彷徨(さまよ)ふのだ、太陽高く登る頃、
  群とメーリイの住家とを私の眠(ねむり)の下に眺めつつ。

  何と楽しい哉、お前の堤(つつみ)、又その下なる緑の谷は、
  其処に森地の中に桜草は咲き乱れ、
  其処で幾度(いくたび)か穏かな夕暮の草原の上に泣く時、
  香馨(かおりかぐ)はしい樺(かば)の木は
    私のメーリイと私とを覆ふのだ。

  お前の水晶の流(ながれ)は、アフトン、何と愛すべく流るる哉、
  其(そ)は私のメーリイの住む家の傍らで向きを変へる。
  何と夢中にお前の水は彼女の真白の足を洗ふ哉、
  奇麗な花を集めつつ彼女の川を渡る時。

  静かに流れよ、佳きアフトンよ、お前の緑なす丘の間を、
  静かに流れよ、佳き川よ、私の歌の題目よ。
  私のメーリイは眠ってゐる、お前の呟く流の辺りで、
  静かに流れよ、佳きアフトンよ、彼女の夢を妨ぐな。

                       (中村為治訳)
…… * …… * …… * …… * …… * …… * …… * ……
《私の鑑賞ノート》
 ロバート・バーンズ(1759年~1796年)については、『ハイランドのメリイ』などで既に述べました。ごく簡単に繰り返せば、バーンズは『蛍の光』(Auld Lang Syne)の原詩者として世界的に知られたスコットランドの国民的詩人です。

 27日夕方当市中央図書館に行き、たまたま見つけた『バーンズ詩集』(岩波文庫)を借りてきました。借りる前ページをめくると、訳詩者・中村為治の序文が昭和3年と、元々はかなり古い訳業だったようです。
 なおパラパラとめくっていると、途中にやはりありました、『ハイランドのメーリイ』が。それだけではありません。ハイランドのメリー関係の詩が、それ以外に数編あったことを知りました。それで俄然『これは借りてじっくり読むべきだ !』となったのです。

 最初の詩は『メーリイ モリソン』、続いて『我が戀人(こいびと)は紅き薔薇(ばら)』、最後が『天上のメーリイ』となっています。
 そして三番目に冒頭に掲げた『アフトンの流れ』があったのです。えっ、アフトン?高校の音楽の時間に習ったあの『アフトン川の流れ』と同じ川?意外なことに、バーンズとアフトン川がつながったわけです。
 しかしこの時はまだ、バーンズのこの詩と歌の『アフトン川の流れ』がダイレクトに結びつくことに気がついていませんでした。

 「♪流れやさしいアフトンの ……」
 『アフトン川の流れ』。タイトルと少しメロディを思い浮かべただけで、懐かしさで涙がこぼれそうになりました。以前『フォレスタの「花の街」』で触れましたように、私の最も多感だった高校時代に教わった歌だからです。
 あの頃は、鈍磨した今の感受性の何倍もの鋭敏さで、美しい歌、美しい詩に感動していましたから。

 『アフトン川の流れ』は、このバーンズの詩に曲がつけられた歌であることを知ったのは、家に帰ってネット検索してからのことでした。(作曲はジョナサン・スピルマン。)
 しかも原詩で詠まれているのは、ハイランドのメリー。こうして今の今まで知らなかったのに、たった何時間かで、ロバート・バーンズ、ハイランドのメリー、アフトン川の流れが一直線につながったのです。

 それにしてもこの原詩そして昔私が習った『アフトン川の流れ』は、若くて美しいメアリー・モリソンを讃える詩であり歌だったとは ! そして既にみたように、この詩のすぐあとの『ハイランドのメーリイ』は、急逝してしまったメアリーを悼む悲痛の詩なのでした。
 『ハイランドのメーリイ』など一連の詩と『アフトン川の流れ』の歌によって、夭折したハイランド(スコットランド高地地方)の、無名に近かった一人の娘の名前は世界中に知られることになったのです。

 その証拠の一つを意外なところで見つけました。
 それは、19世紀後半のアメリカの作家マーク・トウェインの『ハックルベリ・フィンの冒険』の中でです。
 「宿無しハック」(ハックルベリ・フィン)と逃亡黒人奴隷ジムは、筏(いかだ)に乗ってミシシッピ川を下っていきます。途中でジムとはぐれてしまったハックは、同川中流域の土地に上陸し、近くの旧家にしばらく滞在させてもらいます。その旧家の立派な居間の壁に、何と「ハイランドのメリー」の絵がかけられていたのです。

 この小説の時代背景は1830年代頃。まだ電話もラジオもない時代に、ハイランドのメリーの名前はアメリカ深南部にまで達していたのです。「文化の伝播力」というようなことを考えてしまいます。

 (大場光太郎・記)

参考・引用
『バーンズ詩集』(岩波文庫、中村為治訳)
『アフトン川の流れ(Flow Gently Sweet Afton)』(YouTube動画、ロジェ・ワグナー合唱団)
https://www.youtube.com/watch?v=TyDwPMAjJhk
 (寸評:素晴らしい混声合唱です ! さながら賛美歌のようです。ただ歌っている言語は英語ではなくドイツ語?のようです。動画は実際のアフトン川なのかどうか、豊かな自然の中を流れる川の動画です。)
『アフトン川の流れ(Flow Gently Sweet Afton)』(同動画、歌:Jo Stfford)
http://www.youtube.com/watch?NR=1&v=N8g_NCIdeRE&feature=endscreen
 (寸評:こちらは、ジョー・スタフォードという女性歌手による独唱です。しっとり聴かせる歌唱です。言語はもちろん英語、バーンズの原詩そのままです。)
関連記事
『ハイランドのメリイ』
http://be-here-now.cocolog-nifty.com/blog/2010/06/post-bcb5.html
『フォレスタの「花の街」』
http://be-here-now.cocolog-nifty.com/blog/2012/04/post-6dd3.html
『「ハックルベリ・フィンの冒険」読みました』
http://be-here-now.cocolog-nifty.com/blog/2012/04/post-fef7.html


【参考】

 上に紹介したジョー・スタフォード『アフトン川の流れ』動画のコメントで、外国の方がバーンズの原詩(一部)を紹介してくれています。今回参考に以下に掲げます。(2017.10.19)

Nat Webb Nat Webb3 年前

Flow gently, sweet Afton! amang thy green braes,
Flow gently, I'll sing thee a song in thy praise;
My Mary's asleep by thy murmuring stream, Flow gently, sweet Afton, disturb not her dream.

Thou stockdove whose echo resounds thro' the glen,
Ye wild whistling blackbirds in yon thorny den,
Thou green-crested lapwing thy screaming forbear,
I charge you, disturb not my slumbering Fair.

How lofty, sweet Afton, thy neighbouring hills,
Far mark'd with the courses of clear, winding rills;
There daily I wander as noon rises high,
My flocks and my Mary's sweet cot in my eye.

How pleasant thy banks and green valleys below,
Where, wild in the woodlands, the primroses blow;
There oft, as mild Ev'ning weeps over the lea,
The sweet-scented birk shades my Mary and me.

Thy crystal stream, Afton, how lovely it glides,
And winds by the cot where my Mary resides;
How wanton thy waters her snowy feet lave,
As, gathering sweet flowerets, she stems thy clear wave.

Flow gently, sweet Afton, amang thy green braes,
Flow gently, sweet river, the theme of my lays;
My Mary's asleep by thy murmuring stream,
Flow gently, sweet Afton, disturb not her dream.

|

« 街灯は何のためにある? | トップページ | 「就職偏差値」が異様に高い2つの地方大学 »

名詩・名訳詩」カテゴリの記事

名曲ー所感・所見」カテゴリの記事

コメント

 本記事は2012年10月28日公開でしたが、今回トップ面に再掲載します。
 冒頭掲げた訳詞は、少し時代がかっていて読みづらいかもしれません。が、これは原則、訳詞を含むすべての著作物は、わが国著作権法により著作者及び著作権者の死後50年が経過しないと公開できない定めにより、やむなくそれ以前のものを用いるしかないことによるものです。
 

投稿: 時遊人 | 2018年6月21日 (木) 04時09分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 街灯は何のためにある? | トップページ | 「就職偏差値」が異様に高い2つの地方大学 »