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フォレスタの「さくら貝の歌」

-八州秀章自身の初恋の人との死別が、この美しい不朽の名叙情歌を生んだ-

  (この歌のYouTube動画はURL表記。)
   元の収録版 http://www.dailymotion.com/video/x26c0vv_%E3%81%95%E3%81%8F%E3%82%89%E8%B2%9D%E3%81%AE-%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%82%BF_music
    新収録版 http://www.youtube.com/watch?v=Erwi81fygRM

 直前の『雨降りお月さん』もそうでしたが、名曲として後々まで歌い継がれる歌には知られざる秘話がある場合が少なくないものです。そのエピソードあればこそ、後の世まで残る名曲にまで昇華し得たと言えるような…。
 この歌の場合、それは作曲した八州秀章(やしま・ひであき)にまつわる悲話です。

 八州秀章は、「男が音楽など勉強するとは何事か !」という親の反対を押し切って、故郷である北海道から上京しました。しかしその直前、初恋の人が胸の病で亡くなっていたのです。だから八州にとっては、失意に胸を痛めての上京でもあったわけです。
 ちなみに八州秀章はペンネームで、本名は鈴木義光です。ペンネームは、初恋の人の名前の横山八重子から「八」を取り、彼女の戒名の<誓願院釋秀満大姉>から「秀」を取ってつけたものです。

 時が経った昭和14年秋、親しかった土屋花情と新人歌手の小笠原光子と三人で鎌倉の海岸を、由比ガ浜から七里ガ浜に向かって散歩していました。その時、海辺に散るさくら貝を見た八州秀章が、土屋花情に「どうだ君、『さくら貝の歌』というのはいいタイトルだと思うが作ってみないか」と言い、自分で書いたモチーフの短歌を口ずさんだそうです。
 こうして数ヵ月後に出来たのが『さくら貝の歌』だったのです。(ただ実際発表されたのは、戦後の昭和24年のこと。)



 鎌倉の海岸でたまたま見つけた「うるわしきさくら貝ひとつ」に、八州秀章は亡くなった初恋の人の面影をダブらせていたことは明らかです。八州の想いに深く感応(かんのう)したのか、土屋花情の一つひとつの詩の言葉に心打たれます。
 八州秀章は戦後も次々にラジオ歌謡から名曲を生み出しました。『あざみの歌』(昭和25年)『山のけむり』(昭和26年)『チャペルの鐘』(昭和27年)『毬藻の歌』(昭和28年)…。八州作品としては、この『さくら貝の歌』が「日本の歌百選」(2006年)に選定されました。

 あらためて言うまでもないと思いますが、この歌の最後のフレーズに出てくる「うつし世」とは「この世」ということです。この歌のみならず、「現し世(うつしよ)」は歌を作るにあたって使い勝手のよい言葉なのか、流行歌・演歌にしばしば用いられます。
 それではなぜこの世を「うつし世」と言うのでしょうか?これにつきましては、既に『「現し世」考』(2008年7月)という一文で突っ込んだ考察をしていますので、興味がおありの方はご一読ください。

 八州秀章はこのうつし世に残され、そして大切な初恋の人はかの世に。互いに顕幽を隔てて、最早合い見ることは適わないのです。それゆえこの歌詞の「うつし世」は、そんじょそこらの安直な用い方とはわけが違うのです。

 土屋花情の優れた歌詞をベースとして、八州秀章のメロディは切ないまでの哀切な叙情性を、いやが上にも高めています。
 詞と曲があいまって、亡き横山八重子への最高の手向けの歌、鎮魂歌であり、さらには個人的な事情を超えた不朽の名曲であるように思われます。

                        *

 今回は『フォレスタの「さくら貝の歌」』として、特に2つのYouTube動画を表記しました。

 まず一つ目は、小笠原優子さん、白石佐和子さん、矢野聡子さん、中安千晶さんという初代女声コーラスメンバーによるスタジオ収録版です。叙情性溢れるこういう歌は、このメンバーお手のものといった感じがします。
 このうつし世の私たちは、よほど進化しませんと肉体の死を免れることは出来ません。よってこの先もまだまだ恋人のみならず、伴侶や親子といった愛する人との死別は避け難いわけです。
 さくら貝に仮託した普遍的な哀しみを、4人の女声コーラスは見事に歌い上げています。

 次の動画は、上の4人に吉田静さんが加わった、ステージ収録版です。
 他の歌のステージ版では、会場が広いため歌声が拡散してしまうからなのか、同じ歌のスタジオ版に比べて『どうも違うなあ』と感じることがまゝあります。
 その点この『さくら貝の歌』ステージ版は、スタジオ版と遜色ない出来ばえだと思います。吉田さんが加わったことによって、コーラスがより厚みを増したように感じられます。

 ピアノ伴奏はどなたかよく分かりませんが、初めに映し出された手の感じでは南雲彩さんでしょうか。詩的な演奏でとてもいいですね。
 何の関係もありませんが、このステージ版を聴いていて、どうしてか、純朴・純情だった私自身の高校時代のことが懐かしく思い出されました。
 それからこれは余談ですがー。たいがいのステージ版では女声メンバーのカメラ映りがイマイチのようですが、このステージはそんなことはなく、皆さんとっても綺麗です !

 (大場光太郎・記)

『フォレスタの「さくら貝の歌」(撮り直しヴァージョン)』
http://www.youtube.com/watch?v=6ukWfLXWY4s&feature=plcp

参考・引用
日本音楽教育センター編『美しき歌 こころの歌 新・叙情歌ベスト選集』別冊
『鑑賞アルバム 私の好きなうた』-「叙情歌とは?(喜早哲)
関連記事
『フォレスタの「雨降りお月さん」』
http://be-here-now.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/post-1d4b.html
『日本の歌百選』
http://be-here-now.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/post-f43b.html
『フォレスタコーラス』カテゴリー
http://be-here-now.cocolog-nifty.com/blog/cat49069329/index.html
『「現し世」考』
http://be-here-now.cocolog-nifty.com/blog/2008/07/post_425a.html

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