フォレスタの「野菊」
-愛する祖国よ。とこしえに「うすむらさき」に「けだかくきよく 匂う」国であれ !-
(『フォレスタ 野菊』YouTube動画)
http://www.youtube.com/watch?v=JWkEUK9nBco
季節ごとに思い出すともなしに思い出し、気がついたらふと口ずさんでいる歌があります。『野菊』もその中の一つです。この歌を教わったのは小学校の3年だったか、4年だったか、いずれにしても、秋も深まった頃。郷里の山形の晩秋の「小寒い」季節感と当時の思い出が蘇えってくる懐かしい歌です。
当時はあまり気にもかけていませんでしたが、あらためて調べみると、この歌の作詞は石森延男、作曲は下総皖一なのでした。
作詞の石森延男(いしもり・のぶお)(1897年~1987年)は、北海道札幌市生まれの児童文学者、国語教育者、教科書編集者。北海道のアイヌを主人公とした『コタンの口笛』(1957年)は特に有名です。
作曲の下総皖一(しもおさ・かんいち)(1898年~1962年)は、埼玉県北埼玉郡原道村(現・加須市)生まれの作曲家、音楽教育者。『野菊』のほかに『かくれんぼ』『蛍』『たなばたさま』などの童謡を作曲しています。
この歌が作られたのは昭和17年(1937年)です。この年には『鈴懸の径』や『若葉』なども作られました。時あたかも日米戦争の真っ只中でしたが、この3曲はいずれも明澄と言おうか、不思議な透明感と言おうか、戦時中の歌とは感じさせない澄み切った名叙情歌です。
ただ私見を述べさせていただければー。『野菊』の歌詞から受ける印象では、同じ年でも『鈴懸の径』や『若葉』より遅い時期の発表だったのではなかろうか、と思われます。その間何があったのでしょうか?『フォレスタの「若葉」』の該当部分を引用します。
「昭和17年はこの年6月のミッドウェー海戦や同年8月のガダルカナル島の戦いで日本軍の敗色が決定的になった年でした。」
ところで厳密な意味で「野菊」という花はないそうです。「野原に咲く菊」というほどの意味合いから野菊と呼ばれていますが、路傍に咲くキク科(キク属、ヨメナ属、ノゲン属、シオン属)の総称のようです。この歌で「やさしい野菊 うすむらさきよ」と歌われている野菊は、カントウヨメナを指すようです。
伊藤左千夫の名作『野菊の墓』の最後で、政夫が民子の新墓の周りに野菊をいっぱい植える、泣かせる場面がありました。野菊は民子が生前好きだった花で、政夫は亡き民子へのせめもの手向けとしたわけですが、この場面の野菊も同じくカントウヨメナだそうです。
野菊小曲
そぞろさみしく吹く風に
そよぐ野山の秋の草
知る人ぞなきこの野辺に
うすむらさきの色染めて
なぜにやさしく匂うのか
この詩は、私が中学3年生だった昭和39年に作り、後に一部手直しした詩です。『野菊』の歌詞の影響もかなりありそうです。それに気恥ずかしいことに、手書きの私家製詩集のこの詩の題名に続いて、(「野菊の墓」の民子に捧げる詩)とあります。
その前年の2年生の秋に『野菊の墓』を読み、思春期のかなり深刻な“「野菊の墓」かぶれ”状態がずっと続いていたのです。
この詩を2008年10月に公開しました。開設当時は毎日更新を原則としており、この時は公開する記事が何もなく、思いあまって目をつぶって公開したのです。
そうしましたら、思いがけなく『うた物語』の二木紘三先生からコメントをいただきました。
二木先生は、木下恵介監督の名画『野菊の如き君なりき』(原作は『野菊の墓』)を4、5回観られたそうです。そのうちの1回は、当時反抗期がひどかった娘さん(長女)とでしたが、その映画のラストで娘さんは…。
思い出深い『野菊』を、女声フォレスタがしっとりと歌ってくれています。中安千晶さん、白石佐和子さん、吉田静さんの3人によるコーラスです。
1番は白石さんの独唱です。白石さんの高く凛とした歌声、いいですね。伸び伸びと歌っていると思しく“聴かせて”くれます。時折り「白石佐和子 美人」という検索フレーズが見受けられますが、この歌の白石さんがまさにそうなのでしょうね。(いえ、中安千晶さんも吉田静さんも負けず劣らぬ美人です。)
2番からは吉田さんのメッツォ・ソプラノによって、歌に奥行きと重厚さが加わり、2番後半から中安さんがさらに加わることによって、見事な『野菊』コーラスが完成されます。
3番の、三人三様の歌声がかもし出す三重唱は、「けだかくきよく 匂う」野辺に咲く野菊のさまをあますところなく表現しています。
きれいな、やさしい、あかるい、「野菊の如き君なりき」のような立ち姿のお三人です。
(大場光太郎・記)
『フォレスタ - 鈴懸の径』
http://www.youtube.com/watch?feature=endscreen&NR=1&v=qXO5_6PPrj0
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『フォレスタの「若葉」』
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『野菊小曲』
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